第394章:鳥籠の中の告白、母の未練と冷たい現実
南コンチェルビルの最上階、外界の雨音さえ届かない静寂の部屋。
ラグジュアリーなソファの上で毛布にくるまりながら、かすみは目の前に立つ南将暉を見上げ、ガタガタと小さく身体を震わせていた。
将暉から突きつけられた「結婚しよう」というあまりにも唐突で執着に満ちた求婚。
その言葉は、傷つき拒絶されたかすみの心に寄り添うようでいて、その実、早瀬碧から彼女を完全に剥ぎ取ろうとする悪魔の囁きだった。
「あの……私、これからどうすればいいの……?」
かすみは青白い唇から、掠れた声を絞り出した。視線は行き場を失い、高級な絨毯の上を虚しく彷徨う。
「私……まだ、ちゃんと早瀬碧さんとは離婚してません……。籍だって入ったままだし、あんな形で飛び出してきたけれど、私たちの関係は何も終わっていないのよ……っ」
「そんなものは、俺の権力でどうとでも手続きできるさ。君がその気になれば、明日にはあんな男との婚姻関係など消し去って見せる」
将暉はフッと冷たく微笑み、グラスのアルコールを口に含む。だが、かすみは首を激しく横に振った。頭の中に浮かぶのは、昨夜のあまりにも惨めで狂おしい自分の姿だった。
「違うの……! 私、昨日碧さんと喧嘩して……頭がおかしくなりそうになって、友達の家(貝森邸)から靴も履かないで、裸足のまま飛び出してきてしまったのよ……!? 携帯も、何もかも置いて……今の私は、ただの迷子の惨めな女でしかないわ……!」
涙が再び溢れ出し、かすみの頬を濡らしていく。体温は温かい毛布で戻りつつあっても、心の寒さは増すばかりだった。そして何より、彼女の胸を一番激しく抉るのは、残してきた我が子たちのことだった。
「……子供たちは、また泣いていると思う。凛も、蓮も……パパとママが、二人一緒にいなきゃ嫌だって……あんなに泣いて私を引き止めようとしてくれたのに……っ。それなのに私は、子供たちを置いて一人で逃げ出してしまった……!」
かすみは顔を覆い、ソファの上で小さく丸くなって激しく泣きじゃくった。
『パパとママが一緒にいなきゃ嫌だ』
子供たちのあの切ない叫びが、耳の奥で何度も何度もリフレインする。碧を愛するがゆえの逃亡だったはずなのに、結果として最愛の子供たちを再び地獄の涙に突き落としてしまったという圧倒的な罪悪感。
将暉はそんなかすみの背中を、静かに、しかし逃がさないように強く上から抱きすくめた。
「泣かないで、かすみ。子供たちのことも心配いらない。早瀬碧からその子供たちすら奪い取って、俺が新しい父親になってやってもいいんだ。……だから君は、ただ俺の腕の中で、あいつへの未練を全て捨て去ればいいんだよ」
将暉の歪んだ優しさがかすみを包み込んでいく。しかし、どれだけ碧とすれ違い、傷つけ合おうとも、かすみの心の奥底にある「早瀬碧の妻」としての本能と、子供たちを想う母としての絆は、南コンチェルの最上階という強固な鳥籠のなかでも、決して消え去ることはないのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




