第390章:未完の対話、介入する戦友たち
「離婚するならそれは仕方ないって思ってます……っ」
かすみの悲痛な覚悟が応接室の静寂を切り裂いた瞬間、振り返った早瀬碧の顔は、怒りではなく、見たこともないような深い混迷と苦悩に歪んでいた。
碧は強く拳を握りしめ、自身の胸元を掴むようにして、かすみに向かって掠れた声を絞り出した。
「……ダメだ。今の俺には、自分の心さえ制御できない。かすみ、お前が俺のために命を懸けたことも、あの言葉が全て嘘だったことも頭では分かっている。……なのに、どうしてこんなにも胸が抉られるように痛むのか、こんな気持ち、俺には分からないんだよ……!」
「碧さん……」
「俺たちだけで話していても、今は感情が破滅に向かうだけだ。……貝森拓人とあやめの意見も聞いてからにしよう。あいつらの前で、もう一度話し合う」
碧はそれだけ言い残すと、感情が決壊するのを防ぐように、突然背を向けて応接室から足早に出て行ってしまった。
バタン、と静かに閉まったドアの音。
残されたかすみは、その場に力なく崩れ落ちた。
(……あんなに苦しそうな碧さん、初めて見た。いくら周囲の意見を聞くと言っても、碧さんの心がこれほど拒絶しているなら……私たちは、もう本当にダメなんだわ……)
絶望の涙が床にシミを作っていく。夫婦の絆は完全に修復不能の粉々に砕け散ってしまったのだと、かすみは胸を締め付けられていた。
しかし、その絶望の静寂は長くは続かなかった。
カチャリ、と再び応接室のドアが開く。
入ってきたのは、廊下で碧とすれ違い、事の重大さを察した貝森拓人とあやめの夫妻だった。二人の表情には、いつもの余裕はなく、親友の危機に対する真剣な光が宿っている。
「かすみさん……!」
あやめがすぐにかすみの元へ駆け寄り、床に膝をついてその華奢な肩を強く抱きしめた。拓人もまた、深くため息をつきながらドアを閉め、二人の前に歩み寄る。
「あやめさん……拓人さん……。ごめんなさい、私、碧さんをあんなに傷つけて……もう、終わりみたいです……」
泣きじゃくるかすみを見つめ、拓人は静かに首を横に振った。
「終わりなんかじゃないさ、かすみさん。あいつはただ、お前を愛しすぎるがあまりに、生まれて初めて経験する『激しい嫉妬』という感情に脳を焼かれてパニックを起こしているだけだ。あんな抜け殻みたいな碧、俺も初めて見たよ」
「拓人の言う通りよ、かすみさん」
あやめがかすみの涙を優しく拭い、その目を真っ直ぐに見据えた。
「碧さんは逃げたんじゃないわ。自分一人じゃ貴方を傷つけてしまうかもしれないから、私たちを頼ったのよ。だから、ここからは三人での話し合いよ。どうやってあの分からず屋の魔王の目を覚まさせ、南条の呪縛を完全に叩き潰すか――じっくり作戦を練りましょう!」
友の力強い言葉と、差し伸べられた温かい手。
絶望のどん底にいたかすみの心に、戦友たちの介入によって再び小さな火が灯る。夫婦の危機の裏で、早瀬・貝森の真の同盟による「魔王救済のための話し合い」が、今ここに幕を開けたのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




