第382章:親友の怒号、魔王を呼び覚ます声
同じく、青藍高校付属中学校の入学式当日の朝。
早瀬ホールのCEO室の奥にあるプライベートルームで、碧はベッドの端に腰掛け、頭を抱えていた。
数日前にかすみのあの声を聴いて以来、彼の自尊心と理性は粉々に砕け散り、まともに眠ることさえできていなかった。だが、そんな絶望の最中にあっても、今日が息子である蓮の運命の入学式であることだけは嫌でも頭にこびりついている。
「……くそっ、どうすればいい……」
碧は手元にある青藍の入学案内冊子を睨みつけた。そこには、格式高い伝統校ゆえの厳しい文言が刻まれていた。
『――本校の入学式には、特別な事情を除き、保護者(夫婦揃っての出席)を義務付ける。これに違反した場合、入学の許可を取り消す場合がある』
あやめがかすみに告げたあの言葉は、単なる脅しではなく、碧の脳内でも最悪のリアルとして重くのしかかっていたのだ。だが、今のかすみとの関係で、平然と夫婦揃って出席することなどできるはずがない。離れ離れに住んでいる今、彼女の顔を直視する自信さえ、今の碧にはなかった。
極限まで追い詰められた碧は、震える指でスマートフォンを掴み、唯一すべてを打ち明けられる親友、貝森拓人の番号を呼び出した。
『碧か。どうした、今日はいよいよ入学式だろ?』
受話器の向こうから聞こえる拓人の落ち着いた声に、碧は掠れた声を絞り出した。
「拓人……どうしよう。どうしたらいいんだ……」
『……碧? お前、そんな情けない声を出すなんて、一体何があったんだ』
「今日の入学式……夫婦揃って出席しなきゃいけないのに、俺は今、かすみと離れ離れに生活しているんだ。あんなことがあって、どうしても一緒に出席することなんてできない……。だが、出席しなければ蓮の入学が取り消されてしまうかもしれない。どうしよう、拓人……っ」
あの「早瀬碧」が、他人に「どうしよう」と弱音を吐いて縋っている。かすみを愛するがゆえの深い傷口から流れる血に、碧は完全に自分を見失っていた。
だが、その情けない告白を聴いた瞬間、受話器の向こうの拓人の空気が一変した。
『――おい、早瀬碧ァァァッッッ!!!!』
鼓膜が破裂せんばかりの、拓人の凄まじい怒号が受話器の向こうから碧の脳内へと叩きつけられた。
『お前、何をごちゃごちゃと腑抜けたことを言ってやがるんだ!! 自分のプライドが傷ついたからって、最愛の妻から逃げて、息子の晴れ舞台までフイにする気か!?』
「拓人、お前に俺の気持ちが――」
『うるせえッ!! 気持ちなんて関係ねえんだよ!!』
拓人は碧の言葉を強引にかき消し、碧の心の一番脆い部分を容赦なく踏み抜く、最大の言葉を言い放った。
『お前がそうやってウジウジ引きこもっている間に、あの南条隼人が、次期理事長の権力を盾にして、かすみを横に連れて、父親面して蓮の入学式に出席してもいいのかよ!? 蓮の父親の席を、あのクズに明け渡したままで本当にいいのかって聞いてんだよ、碧ォォォ!!!』
「――ッ!!!!」
拓人のその言葉が突き刺さった瞬間、碧の全身に、落雷のような激しい衝撃が走った。
南条隼人が、蓮の父親としてかすみの隣に立つ。
その最悪の光景が脳裏に浮かんだ瞬間、碧の体内で凍りついていた「魔王の血」が、凄まじい沸点で一気に滾り始めたのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




