第377章:背中への告白、涙の抱擁
「待って、碧……待ってよ!! ねぇ、私の話を聞いて……っ!!」
立ち去ろうとする碧の後ろ姿を見つめ、かすみは南条隼人の制止の腕を振りほどいて、狂ったように走り出した。ボロボロになった別荘の玄関を飛び出し、夜の冷たい風が吹き抜けるなか、愛する夫の背中に向かって必死に手を伸ばす。
碧の足が、かすみの悲痛な叫びにわずかに波打つように止まる。だが、彼は振り返ろうとはしない。その背中は、依然として頑なな絶望に閉ざされたままだ。
かすみは碧の背後にたどり着くと、その広い背中に勢いよく飛び込み、両腕で狂おしいほど強く抱きしめた。碧の纏う高級スーツの生地を通じて、彼の凍りついた体温と、激しく波打つ鼓動が伝わってくる。
「これは演技なの……! 隼人を油断させるための、私の嘘なのよ……! 信じて、お願いだから信じてよ……っ!!」
かすみは碧の背中に顔をうずめ、涙で声を詰まらせながら叫んだ。
だが、碧は動かない。ただ、低く、かすれた声で呟くだけだった。
『分かっている。……お前が俺たちのために命を懸けて芝居をしていたことくらい、頭では分かっているんだ。だが……俺の心はもう、あの声を聴いて壊れてしまった。……もう終わりなんだよ、かすみ』
「終わりなんかじゃないわ……っ!!」
かすみはさらに腕に力を込め、碧の背中にしがみついた。
「もし本当にここで終わりにするって言うなら、凛と蓮にはなんて説明するの!? あの子たち、ママがいなきゃ嫌だって絶対に言うよ……! 私がいなくなったら、碧さん、どうやって子供たちに伝えるの!?」
碧の大きな身体が、子供たちの名前を出された瞬間にビクリと激しく震えた。
「ねぇ、答えてよ碧さん……! 毎日のようにママを探して、凛と蓮が泣いている毎日でいいの!? あの子たちが悲しみに暮れる日々を、碧さんは本当に望んでいるの……っ!?」
かすみの涙が碧の背中をぐっしょりと濡らしていく。
どれだけ自分のプライドが傷つこうとも、どれだけ他の男に甘える声を聴いて理性が狂おうとも、早瀬碧という男は、凛と蓮の父親なのだ。そして何より、かすみを命よりも愛している一人の男なのだ。
かすみの決死の抱擁と、子供たちの未来を人質にした涙の説得。
冷酷なる魔王の心を繋ぎ止めるのは、南条隼人の用意したどんな罠でもなく、かすみが流す本物の涙と、家族を想う強い絆の叫びだけだった。碧の拳が、静かに、しかし激しく握り締められ、二人の運命は再び激しく交錯しようとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




