第375章:硝子の理性、狂おしき嫉妬の咆哮
バガァァァァァァンッッッ!!!
吹き飛んだ別荘のフロントドア。立ち込める白煙の向こうから、全身からどす黒い殺気を放つ早瀬碧が姿を現したその瞬間――。
部屋の中に響き渡ったのは、肉体を物理的に引き裂かれるよりも、何倍も残酷な「音」だった。
「ねぇ……隼人。もっとしてよ……」
隼人の腕の中に囲われたままのかすみが、うっとりとした瞳で、さらに深く男の胸元へとすがりついていく。その声は、熱を帯びて蕩けるように甘く、部屋の隅々にまでこれ以上ない淫靡な残響となって響き渡った。
「――っ」
突入してきた碧の足が、その場に釘付けにされたようにピタリと止まる。
怒りで燃え盛っていたはずの漆黒の瞳が、驚愕と、そして底なしの絶望によって激しく見開かれた。
碧の脳裏を、最悪の衝撃が駆け巡る。
(あんな声……俺は、一度だって聴いたことがない……)
何年も同じベッドで眠り、愛を囁き合い、夫婦としてすべてを共にしてきたはずだった。それなのに、かすみは自分に対してあんな風に、理性を狂わせるほど甘えた声を向けたことなど、ただの一度もなかったのだ。
それが今、目の前で、かつて彼女を恐怖で支配していたはずの因縁の男・南条隼人の腕の中で、いとも容易く紡ぎ出されている。
それが、碧の作戦を成功させるためのかすみの命懸けの「嘘(演技)」だとは、今の碧の脳内では処理しきれなかった。最愛の妻の口から出た他の男への甘い催促――その事実だけで、碧の胸の奥は、狂おしいほどの嫉妬の刃でズタズタに抉り取られていた。
「ハハハ……! 見たか早瀬碧! かすみはお前のものじゃない、最初から俺の所有物だったんだよ!」
形勢逆転を確信した隼人が、勝ち誇った卑劣な笑みを浮かべてかすみをさらに強く抱きすくめる。
「かすみ……ッ! やめろ……! やめるんだ……ッッ!!」
碧の口から、血を吐き出すような悲痛な叫びが漏れ出た。
いつもなら冷徹に状況を支配するはずの早瀬財閥の総帥。その完璧だった仮面が、激しい嫉妬と独占欲の暴走によって完全にひび割れ、砕け散っていく。
我が妻の裏切り(に見える光景)、そして自分に向けられたことのない極上の甘えた声。
愛ゆえに、そして歪んだ支配欲ゆえに――魔王・早瀬碧の頭の中で、最後に残っていた「理性」という名の細い糸が、ブツリと音を立てて完全に破滅へと千切れ去ったのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




