第372章:甘い密月の罠、前夜の電令
「……隼人、愛してる……」
深く、静かな眠りの世界へと落ちていく間際、かすみは隼人の胸元でそう小さく呟いた。
その声はどこまでも甘く、そして哀愁を帯びていて、隼人の歪んだ自尊心を満たすには十分すぎるほどの破壊力を持っていた。
かすみの規則正しい寝息が別荘の寝室に響くなか、南条隼人は彼女をその強靭な腕でしっかりと抱きしめたまま、恍惚とした表情でその寝顔を見つめていた。
ついに手に入れた。早瀬碧から、あの魔王から、最愛の女を、そして子供たちの未来をすべて力ずくでもぎ取ってやったという圧倒的な万能感が、彼の全身の血を熱く滾らせる。
「ああ、俺も愛しているよ、かすみ……。お前はやはり、俺の腕の中でこうして眠っているのが一番美しい」
隼人はかすみの髪を優しく撫で、愛おしそうに目を細めた。
「明日は、さっそく俺たちの南コンチェルに行こう。お前が俺の完全なる妻に戻った記念に、それにふさわしい最高のプレゼントを用意してあるんだ。早瀬碧が与えたどんな宝石よりも、お前を輝かせる特別なものをね……」
かすみを抱いたまま、隼人はサイドテーブルに置いた暗号化スマートフォンを片手で静かに操作した。かすみが完全に眠りについたことを確認すると、その瞳から甘い熱は一瞬で消え去り、南コンチェルを統べる冷徹な支配者・南条隼人の鋭い眼差しへと戻る。
彼は信頼を置く裏の工作部隊のリーダーへ、声を出さずに迅速なテキスト指示を飛ばした。
『早瀬碧が、本当に離婚届の受理手続きを進めているか、今すぐ裏から確認しろ。あの男が子供の入学ごときで、ここまで大人しく最愛の妻を手放すとは思えない。少しでも不審な動きがあれば報告しろ』
どれだけかすみが自分に心を開き、愛を囁こうとも、相手はあの早瀬財閥の総帥・早瀬碧だ。一分の隙もあってはならない。
『了解いたしました、南条代表。早瀬ホールの動向を24時間体制で監視します』
部下からの返信を確認し、隼人は不敵な笑みを浮かべて画面を消した。
碧が本当に絶望し、かすみを諦めて離婚届に判を押しているのか。それとも、この静寂の裏で何か別の牙を研いでいるのか。
「どちらにせよ、もう遅い……。かすみは俺の腕の中にいる。明日、すべてが終わるのさ」
何も知らずに自分の腕の中で静かに眠るかすみをもう一度強く抱きしめ、隼人は明日の南コンチェルでの「完全なる勝利の儀式」を思い描きながら、冷酷な闇のなかで静かに目を閉じるのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




