第370章:過去の亡霊、語られる毒
隼人の腕の中で、かすみはまるで愛らしい妻を演じるかのように、そっと彼の胸に指先を這わせた。
その指先には、先ほど嵌められたばかりのダイヤの指輪が、鈍い光を放っている。
「ねぇ、隼人……」
かすみはわざと少し声を震わせ、好奇心を装って問いかけた。
「あなた、これだけ素敵な人だもの。海外にいる間、結婚したりしたの? もしかして、子供がいたりする?」
隼人の身体が、一瞬だけピクリと硬直したのをかすみは見逃さなかった。だが、彼はすぐに鼻で笑い、嘲笑うような冷ややかな声を響かせる。
「……結婚、か。そんな退屈な鎖に、俺が繋がれるとでも思っているのか?」
「でも、海外生活が長かったなら、奥様や子供がいてもおかしくないでしょう? たとえ愛していなくても……形だけでも、ね」
かすみの言葉に、隼人はつまらなそうに溜息をつき、彼女の顎を指で軽く跳ね上げた。その瞳には、かつて存在したであろう女性たちへの敬意など微塵もなく、ただ『道具』として消費してきたという悍ましい軽蔑だけが浮かんでいる。
「確かに、海外では……まあ、何人かの女と『契約』したことはある。俺の血を継ぐ種を植え付け、南条財閥のコネクションを利用するための、ただの『器』たちだ」
「……器?」
「ああ。用が済めば、金を叩きつけて終わりだ。俺の所有物として価値があるうちは側に置いてやるが、愛だの恋だのという陳腐な感情で、俺の人生を縛らせるような女など存在しない」
隼人は、まるでゴミでも捨てるような口ぶりで言い放つ。
「俺にとっての家族は、かつて俺を裏切った南条財閥の人間たちだけだ。女や子供に愛着を持つなど、弱者のすることだろ? お前だけは特別だと言ったはずだ。お前は俺の……俺だけの、最高の所有物なんだから」
かすみは、その言葉を聞きながら、心の中で激しく碧の名を叫んでいた。
この男には、愛などない。あるのは、すべてを所有し、支配したいという病的なまでの執着だけ。彼が語る『過去』の女たちの末路を想像すれば、かすみは自分の背筋に冷たいものが走るのを禁じ得なかった。
(この人は、本当に人を愛せない……。だからこそ、私をこんなにも……!)
碧がこの男の正体を突き止め、今すぐこの別荘を灰燼に帰してくれることを、かすみは心から願い続けた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




