第369章:所有の刻印、過去を語る悪魔
南条隼人の腕の中で、かすみは自分の呼吸を深く、静かに保ち続けていた。
隼人の心臓の鼓動が、自分の背中越しに激しく伝わってくる。彼は今、勝利の陶酔に浸りきっている。かすみは、その油断を確信し、ゆっくりと切り出した。
「ねぇ……隼人。結婚したのに、指輪はないの?」
その言葉を聞いた瞬間、隼人の瞳に驚きと、それ以上に深い満足の色が浮かんだ。彼はかすみをソファに座らせると、サイドテーブルの引き出しから、重厚なベルベットの小箱を取り出した。
「……さすがだ、かすみ。お前なら、俺がこの日のために用意していたモノに気づいてくれると思っていたよ」
パカリと箱が開くと、そこには息を呑むような大粒のダイヤモンドが、夜空の星を閉じ込めたかのように妖しく光り輝いていた。隼人はその指輪をゆっくりと取り出し、かすみの左手の薬指へと滑り込ませる。
スッと、冷たい金属の感触が肌に馴染む。それは、隼人の独占欲という名の『所有の刻印』だった。
「きれい……」
かすみは、自分の指で光るダイヤを見つめながら、努めて愛おしそうに囁いた。
「ねぇ……もしかしてこれ、前の奥様の指輪なの? あなた、これだけ素敵なんだもの、かなりモテたりしたでしょ? 正直に言ってよね」
隼人の口元が、ニヤリと歪んだ。彼女が自分の過去に嫉妬している、とでも思ったのだろう。彼の虚栄心は、この甘い質問によって一気に満たされた。
「ククク……嫉妬か? 可愛いな、かすみ。いいだろう、教えてやるよ。……これは前の妻の指輪じゃない。俺が南条財閥の御曹司として、あらゆる女たちを侍らせていた時代に、一番美しく、一番俺に相応しいと思った女に捧げるために選んだ、世界に一つだけの特注品だ」
隼人はかすみの指に嵌めた指輪を、もう一度愛おしそうに撫で回す。
「過去に何人いたかなんて覚えていないさ。俺の財力に群がる女など、所詮は虫ケラと同じだ。だが、この指輪だけは特別だ。……お前が俺の元へ帰ってくる、この瞬間のためだけに眠らせておいたんだ」
隼人は勝ち誇った笑みを浮かべ、かすみをもう一度強く抱き寄せた。
「俺は、俺自身が最高だと確信しているもの以外は愛さない。お前も、この指輪も、そして……これから俺が手に入れる早瀬碧のすべてをな」
かすみは、隼人の胸に顔を埋めながら、冷徹なまでの冷静さで碧の到着を待っていた。
隼人が語る過去の栄光と傲慢な自慢話は、彼がどれだけ「今の自分」に自信を持ち、どれだけ「今の自分が無敵だ」と思い込んでいるかの何よりの証拠。
この瞬間も、碧様が確実に、こちらへ向かっている。かすみは、指輪の冷たさを肌に感じながら、心の中で静かに碧の到着を祈っていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




