第367章:魔王の偽装、水面下の誓い
「……わかった。南条隼人、お前の条件を呑もう」
早瀬ホールディングスCEO室。碧は、受話器の向こうの悪魔に向けて、怒りを完全に押し殺した鉄の声を響かせた。
ずっと憧れていた青藍高校付属中学に入りたかった、息子の蓮、そして親友の湊。子供たちがこれまで流してきた努力の汗と、きらめく未来を、大人の身勝手な復讐劇で踏みにじることだけは、父親として絶対に許せなかった。
碧はデスクの引き出しから、一枚の離婚届を取り出した。
ペンを握る手に凄まじい力がこもり、紙が微かに軋む。表向きはかすみを諦め、子供たちの未来を選んだ「敗北者」を演じる――それが、南条隼人の狂ったプライドを最も満たし、油断させる最大の餌だと碧は理解していた。
『ククク……はははは! さすがは賢明な早瀬会長だ。子供の未来が惜しかったか。すぐに離婚届を受理させろ。そうすれば、すぐにでも二人の入学許可を出してあげるよ』
隼人の勝ち誇った下劣な笑い声が響き、通話が切れる。
だが、受話器を置いた碧の瞳には、絶望の影など一滴も存在していなかった。
そこにあるのは、獲物を確実に屠るために牙を隠した、冷酷極まりない魔王の眼差しだった。
「……誠」
「ここに」
影のように控えていた秘書の誠が、静かに一歩前へ出る。
「南条は、俺がかすみと離婚したと思い込んで有頂天になっているはずだ。だが、俺とかすみの絆が、そんな紙切れ一枚で壊れると思っているなら、あの男の脳はよほどめでたくできている」
碧は離婚届を誠へと手渡しながら、冷たい命令を下した。
「表向きはあいつの要求通りに進めろ。だが、裏で南コンチェルの別荘のセキュリティを完全にハッキングし、奪還部隊の配置を急がせろ。あいつが勝利の美酒に酔いしれているその瞬間に、かすみをもう一度、俺の元へ連れ戻す」
「かしこまりました。すでに貝森家とも連携し、別荘の包囲網を構築中です」
誠が深く頭を下げて部屋を後にする。
一人残された書斎で、碧は窓の外の暗闇を見つめ、監禁されている最愛の妻へ向けて、魂の底から語りかけるように呟いた。
(かすみ……少しだけ、我慢してくれ。子供たちの未来は俺が守った。次は、お前をあの地獄から救い出す番だ。……必ず、迎えに行くからな)
偽りの離婚の裏で、早瀬碧の完璧なる反撃の秒読みが、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




