第363章:涙の告発、魔王の目覚め
「――もしもし、碧さん……っ! 碧さん、どうしよう……っ!!」
早瀬邸の静まり返ったリビングで、かすみは床に座り込んだまま、スマートフォンを両手で必死に握りしめていた。涙で視界が完全に滲み、声が過呼吸のように震えてうまくお喋りすらできない。
スマートフォンの向こう、早瀬ホールディングスのCEO室にいる碧は、妻の異常事態を察知し、即座に書類をめくる手を止めた。
『かすみ!? 一体どうした、落ち着いて俺の声を聴くんだ』
「納屋財閥と、森野財閥が……なくなっちゃったの……っ! 南将暉に全部奪われて、私、どうしたらいいのか分からない……! 蓮の中学も、私の家族の廃業も……もう全部、全部終わりだよ……っ!!」
かすみはついに耐えきれず、子供たちの前であることも忘れて声を上げて泣き崩れた。
自分が南条隼人という男に捕まったせいで、過去だけでなく、現在の家族、そして未来ある蓮の夢まで、すべてが連鎖するように壊されていく。その罪悪感と絶望の底なし沼に、かすみは完全に溺れかけていた。
しばらくの沈黙。
受話器の向こうの碧から聞こえるのは、低く、しかし驚くほどに冷静で、地鳴りのように冷徹な足音だけだった。
『……かすみ』
碧の声は、凍てつく刃のように鋭かったが、同時にかすみを優しく包み込む絶対的な抱擁感に満ちていた。
『終わりなんかじゃない。勝手に終わらせてたまるか。……蓮の未来も、お前の実家も、すべて俺がこの手で取り戻す。だから、もう泣くな』
「碧さん……」
『南将暉は、自分が手に入れたばかりの経営権で勝った気になっているようだが、所詮は泥棒の浅知恵だ。二大財閥を敵に回して、タダで済むと思うなよ。……今すぐお前の元へ帰る。凛と蓮を抱きしめて待っていろ』
ブツリ、と通話が切れた。
かすみは涙を拭いながら、碧が残した力強い言葉の余韻に縋るように胸にスマホを当てた。
その頃、早瀬ホールの地下駐車場。
碧は漆黒の高級車のシートに深く腰掛け、すぐさま秘書の誠へ冷酷な、そして容赦のない命令を下していた。
「誠、作戦を開始する。南コンチェル、および青藍高校の全役員の裏口座と不正流用の証拠をすべて市場に開示しろ。あいつらが手に入れたばかりの納屋と森野の株を、明日までに『無価値な紙屑』に変えてやる」
「かしこまりました、早瀬会長」
バックミラーに映る碧の瞳は、最愛の家族を傷つけられた怒りで、完全なる漆黒の魔王のそれへと変貌していた。悪魔の仕掛けた壊滅劇に対して、本物の怪物が、今まさにその巨躯を震わせて動き出そうとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




