第356章:拒絶の不発、堂々たる敵陣乗り込み
「ねぇママ! このネックレスをつけて、あの南社長さんのホテルに行こう? せっかく招待状をくれたのに行かないなんて失礼だよ! 私は絶対に行くからね!」
早瀬邸のリビングに、凛の頑なで譲らない声が響き渡った。
いつもならパパやママの言うことをよく聞く素直な凛が、まるで何かに取り憑かれたかのように、南将暉から届いたダイヤモンドのネックレスを胸元にきゅっと握りしめている。高学年特有の、少し背伸びをしたいお年頃。そこに大人の男から贈られた本物の宝石の輝きは、彼女の理性を完全に狂わせるに十分だった。
「凛、ダメよ……! その人は、あなたたちが思っているような優しい人じゃ……っ!」
かすみが必死に声を震わせながら娘の肩を掴むが、凛は「どうして!? ママはあのおじさまの何が気に入らないの!?」と激しく反発する。
これ以上無理に引き止めれば、凛は本当に両親に心を閉ざし、それこそ南将暉の甘い罠に自ら絡め取られかねない――。
一触即発の親子喧嘩のなかで、それまで重い沈黙を保っていた碧が、ゆっくりと立ち上がった。その長身から放たれる圧倒的な覇気に、凛が思わず息を呑む。
「……分かった、凛。そこまで言うなら行こうじゃないか。南コンチェルのホテルへ」
「碧さん……!?」
かすみが驚愕して夫を見上げるが、碧の瞳の奥にある漆黒の光を見た瞬間、それが「ただ折れたわけではない」ことを瞬時に理解した。引き籠もる娘を無理に縛るより、自分の目の届く場所で、あの毒蛇の牙を完全にへし折る――魔王としての冷徹な強襲の合図だった。
「やったぁ……! ほら、ママ、パパもこう言ってるよ! 蓮も早く準備して!」
無邪気に喜ぶ凛は、さっそく鏡の前でダイヤのネックレスを首に飾り、誇らしげに微笑んだ。
それからわずか一時間後。
早瀬ファミリーを乗せた高級車は、再び南コンチェル系列の最高級ホテルの車寄せへと滑り込んだ。
制服を着たドアマンが最敬礼で出迎えるなか、車のドアが開き、凛を先頭にかすみ、そして碧と蓮がゆっくりと降り立つ。
ロビーの自動ドアをくぐり抜けた瞬間、そこにはすでに、完璧な仕立てのスーツを纏い、すべてを予期していたかのような不敵な笑みを浮かべた南将暉が、一行を待ち受けるように立っていた。
「お待ちしておりましたよ、早瀬会長、夫人。……そして、美しい凛ちゃん。おや、さっそく私のプレゼントを身につけてきてくれたんだね。実によく似合っている」
将暉の切れ長の瞳が、凛の胸元で怪しく光るダイヤモンド、そしてその後ろで自分を殺すような目で見据えている早瀬碧の顔を捉える。
血の繋がりを持たない偽りの家族が、己の罠に自ら飛び込んできた。その滑稽な姿を前に、将暉の胸の奥で、ドス黒い復讐の歓喜が静かに、激しく脈打ち始めるのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




