第348章:交わされる言葉、禁断のワンショット
ホテルのラグジュアリーなロビーラウンジ。
滝の流れる心地よい音と穏やかなクラシックが流れるなか、凛と南将暉は、大きなガラス窓のすぐ横にある特等席でテーブルを挟んで向かい合っていた。
「ここのケーキはね、パティシエが厳選した素材を使っていて、とても評判がいいんだよ。君のお口に合うと嬉しいな」
南将暉は完璧な大人の包容力を漂わせながら、運ばれてきたコーヒーのカップに優雅に口をつけた。
彼の目の前で、凛は少し緊張しながらも、嬉しそうにフォークを手にしている。彼女が選んだのは、真っ白な生クリームが添えられたふわふわのシフォンケーキと、香りの良いダージリンの紅茶だった。
「わあ……! すごくふわふわで、とっても美味しいです!」
「ふふ、それは良かった。……そう言えば、昨日のパーティーでは、一体何のお祝いをしていたのかな? 君たちはそろそろ、中学生になる頃かな?」
将暉が何気なさを装ってプライベートな質問を投げかけると、凛はすっかり彼を「素敵なおじさま」と信用し、声を弾ませて答えた。
「はい! 私と双子の蓮、それと幼馴染の湊くんと百合ちゃんの4人で、中学受験に合格したお祝いだったんです! 春からはサファリア女学院と青藍中学に通うの!」
「なるほど、名門校だね。おめでとう」
将暉は優しく微笑みながら、巧みに会話をリードしていく。
「実はね、私の知り合いにも、君たちと同じくらいの年の子供がいてね。その子は春から『海外の学校』に行くからなんて言って、今から一生懸命準備をしているんだよ。向こうの学校は景色も綺麗でね……」
「海外の学校……! 凄いです、どんなところなんですか?」
海外生活が長かったという将暉の洗練されたトークに、凛はすっかり目を輝かせ、二人の会話はどこまでも楽しそうに弾んでいた。将暉の歪んだ脳内では、(やはり俺の血を引く娘だ、こんなにも俺と話が合うじゃないか……)という狂気的な確信がさらに膨れ上がっていく。
――まさにその時だった。
「――凛っ!!! 探したわよ……っ!」
ラウンジの静寂を破るようにして、背後から響いたのは、息を切らせたかすみの鋭い声だった。
振り返ると、そこには顔を真っ青にさせたかすみと、その隣で、全身から周囲を威圧するほどの漆黒のオーラを放っているタキシード姿の早瀬碧の姿があった。お屋敷から猛スピードで車を飛ばし、間一髪でここまで追ってきたのだ。
「あ……ママ、パパ……!」
凛が驚いて立ち上がる。かすみはすぐさま凛の元へ駆け寄り、その小さな肩を抱き寄せた。
「凛、ダメでしょ!? 1人でお家を出てこんなところに来るなんて……! 南社長、本当にすみません。凛が1人で勝手に押しかけてしまって……ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
かすみは何度も頭を下げ、南将暉から娘を遠ざけようと必死に言葉を重ねた。
「ほら、凛。お家に帰りますよ」
「ええ……でも……」
大好きな南社長ともっとお話ししていたかった凛は、あからさまに名残り惜しそうに下を向く。隣に立つ碧は、終始無言のまま、冷酷極まりない魔王の視線で南将暉を射すくめていた。将暉もまた、完璧なCEOの微笑みの裏で、碧への激しい敵意を静かに燃やす。
早瀬夫妻に促され、凛がいよいよ出口へと歩き出そうとした、まさにその刹那。
凛はハッとしたように足を止め、振り返って自身のスマートフォンを握りしめた。
「――あっ、そうだ! 南社長、もしよかったら、写真を一緒に撮ってください!」
「な……っ!!!?」
かすみの息が止まり、碧の眉間がこれ以上ないほど険しく引き上げられた。
何も知らない凛の無垢なきらめく瞳と、その手にあるカメラレンズ。かつて自分を監禁した男と、最愛の娘が並んで写真に収まろうとするその悪夢のような提案に、早瀬夫妻の胸へ、過去最大の激震が走り抜けるのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




