第346章:ロビーの呼び声、引き寄せられる毒蛇
早瀬のお屋敷から専属運転手の車を走らせ、凛はついに、昨日訪れたばかりの南コンチェル系列ホテルの巨大なグランドロビーへと足を踏み入れていた。
昼間のロビーは、高い天井から柔らかな光が差し込み、行き交うビジネスマンや外国人観光客で賑わっている。その洗練された大人の空間のなかで、まだ高学年の凛が一人でポツンと立っている姿は、否応なしに周囲の目を引いていた。
凛は小さく深呼吸をして胸のドキドキを抑えると、意を決して豪華なフロントカウンターへと歩み寄り、コンシェルジュの女性に声をかけた。
「あの……すみません。昨日、こちらで私たちの家族にご挨拶してくださった、背が高くてとっても素敵なおじさまにお会いしたいのですが……。南将暉社長さんという方なんです」
「え……?」
フロント係の女性は、目の前の可憐な少女の口から飛び出した「最高経営責任者」の名前に、驚いて目を丸くした。しかし、いくら高名な企業の令嬢風の佇まいとはいえ、まだ子供が単独でオーナーに面会を求めてくるなど前代未聞だ。スタッフは困ったように眉を下げ、優しく、けれど諭すように凛を見つめた。
「お嬢ちゃん、ごめんなさいね。南社長はとてもお忙しい方なの。それにね、こんなに大きくて広いホテルに、子供が1人で来たらダメよ。……パパやママはどうしたの? 今日は一緒じゃないのかしら? 危ないから、今度はちゃんとパパやママと一緒に来なさいね」
「そんな……。でも、私はどうしても今日……」
凛が食い下がろうとした、まさにその時だった。
ホテルの最上階にあるオーナー専用の執務室では、南将暉がデスクの後ろで、昨日目撃した双子の子供たち――凛と蓮の写真をじっと見つめ、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
(あの双子……本当に早瀬碧の子供じゃないなら、やはり俺の血を引いているのではないか……?)
一度芽生えた狂気的な疑惑は、彼の頭の中で肥大化し続けていた。
そこへ、デスクの上の黒い電話機が、鋭い音を立てて鳴り響いた。フロントからの直通内線だ。
『――失礼いたします、南社長。昨日、早瀬会長と共にいらしたお嬢様が、お一人でロビーに受付にいらしておりまして……オーナーへ面会を求めておられます。ご両親のお姿は見えません。至急、早瀬家へご連絡を入れるべきでしょうか?』
「何……?」
将暉は受話器を握る手に思わず力がこもった。まさか、自分が調査を開始した矢先に、ターゲットである娘のほうが、両親の目を盗んで単独で自分の足元へ飛び込んできたというのか。
受話器の向こうで困惑するスタッフを余所に、将暉の端正に整形された顔が、ドス黒い歓喜と歪んだ好奇心でニヤリと醜く歪んだ。
「……いや、両親への連絡はまだいい。私が直接ロビーへ降りて対応する。そのまま待たせておけ」
パチリと電話を切ると、将暉はゆっくりと椅子から立ち上がり、仕立ての良いジャケットの襟を正した。
「ククク……まさか、あっちから自分でやってくるとはね。好都合だ。……さてと、あの子と俺の『親子関係』をハッキリと調べるためにも、ここは少し、優しくお相手をしてあげようかな?」
実の父親であるという妄想を狂おしく膨らませながら、毒蛇は獲物が待つロビーへと向かって、静かにエレベーターへと歩き出すのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




