第345章:暴走する純情、残されたメモ
「はぁ……はぁ……ダメ、やっぱりじっとしていられない……!」
学校を休むと告げて自室に引きこもっていた凛は、ベッドの中で激しく脈打つ胸を押さえながら、ついに固い決意を固めていた。生まれて初めて知ったこの激しい鼓動は、部屋にこもって教科書を眺めているだけでは、どうしても抑えきれるものではなかったのだ。
凛はクローゼットからお気に入りの私服を選んで素早く着替えると、パパやママに見つからないよう、細心の注意を払って勝手口からお屋敷を抜け出した。
お屋敷の車庫に向かった凛は、そこにいた早瀬家の専属運転手の元へと駆け寄る。
「お願い、私を昨日のあのホテルまで乗せていって! パパにはもうお話ししてあるから大丈夫よ」
高学年になり、大人顔負けの気品と凛とした口調を身につけていた凛にそう言われ、運転手は一切の疑いを持たずに「かしこまりました、お嬢様」と車のドアを開けてしまった。
静かに走り出す高級車の後部座席で、凛は小さく身を縮めながら、心の中で何度も両親に謝罪していた。
(いきなり会いに行ったりしたら、パパもママも絶対に怒るよね……。それは分かっているの。でも……ごめんなさい。どうしても、あの南社長さんに会いたいの。だって、このドキドキはもう、誰にも止められないんだもん……!)
その頃、早瀬のお屋敷のリビング。
朝食の片付けを終えたかすみは、やはり学校を休んだ娘の体調が心配でならず、お盆に温かいココアを乗せて凛の部屋の前へとやってきていた。
「凛? ココアを持ってきたわよ。少しお話ししない?」
コンコン、と優しくドアをノックするが、中からは何の返事もない。
不審に思ったかすみがそっとドアノブを回して部屋に入ると、そこには誰の姿もなかった。綺麗に整えられたベッドと、主のいない勉強机。
「あら……? トイレかしら」
かすみが首をかしげながら部屋を見渡したその時、勉強机の上にポツンと残された一枚の白いメモ用紙が目に飛び込んできた。そこには、凛の読みやすい文字で、信じられない言葉が書き残されていたのだ。
『パパ、ママ、ごめんなさい。私、昨日の南社長さんのところに行ってきます。どうしても、もう一度あのおじさまにお会いしたいの』
「――っ!!!?」
かすみは持っていたお盆を取り落としそうになりながら、そのメモを震える手でひったくった。血の気が一瞬で引き、心臓が凍りつくような恐怖が全身を駆け巡る。
「大変……! 凛が、一人であの人のところに行っちゃったのね……!?」
かすみはメモを握りしめたまま部屋を飛び出し、書斎でタブレットを睨みつけていた碧の元へと狂ったように駆け込んだ。
「碧さん!! 碧さん、大変よ……っ! 凛が……凛が一人でお屋敷を出て、あの南将暉のホテルへ出かけちゃったのよ……!!」
かすみの悲鳴のような報告を聞いた瞬間、早瀬碧の周囲の空気が、地獄の底のような漆黒の殺意へと一変した。最愛の娘が、自らあの毒蛇の牙の元へと向かってしまった――早瀬家に、かつてない暗黒の嵐が吹き荒れようとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




