第342章:夜の静寂、母の祈りと冷徹な誓い
楽しかった合格祝いのディナーが終わり、早瀬ファミリーを乗せた高級送迎車は、静まり返った夜の幹線道路を滑るように走っていた。
車内を照らすのは、通り過ぎる街灯の微かな光だけ。後部座席では、慣れない高級レストランと緊張からの解放で疲れ果てた凛と蓮の二人が、互いに寄り添い合うようにしてすっかり深い眠りに落ちていた。すやすやと規則正しい寝息を立てる我が子の寝顔は、どこまでも無垢で、愛らしかった。
助手席に座るかすみは、バックミラー越しに娘の寝顔をそっと見つめた後、たまらなくなって運転席の碧へと向き直った。その美しい瞳には、レストランでの幸福な余韻など消え失せ、深い不安の影が落ちている。
「ねぇ……碧さん。さっきレストランで、凛が言っていたこと……あの子の本心かしら?」
かすみの声は、後部座席の子供たちを起こさないよう、かすかに震える囁き声だった。しかし、その中には母親としての切実な恐怖が混じっている。
「南社長……南将暉さんだなんて、まだ一度会ったばかりの、それも大人の男性なのに……。あんなに胸がドキドキしたなんて……。碧さん、絶対に、絶対に南将暉とはお付き合いしたらダメなのよ。凛には、あの子を心から大切にしてくれる、世界で一番素敵な人と温かいお付き合いをしてほしいのに……」
かすみは自身の両手を胸の前で固く握りしめた。
彼女の脳裏をよぎるのは、さっきロビーで見た南将暉の、整いすぎた冷徹な瞳だ。顔も名前も違う。けれど、かすみの本能は、あの男の背後に漂う『何か』を激しく拒絶し、娘を近づけてはならないと警鐘を鳴らし続けていたのだ。
そんな妻の取り乱す様子を察し、碧は赤信号で車を止めると、左手を伸ばしてかすみの震える手を優しく、しかし力強く包み込んだ。
「……分かっているよ、かすみ。大丈夫だ」
碧の低く落ち着いた声が、車内の張り詰めた空気を優しく溶かしていく。
「凛はまだ高学年だ。大物社長という華やかな肩書きと、あの男の取り繕った外見に、ほんの少し目を奪われただけに過ぎない。中学生になれば、青藍の付属で湊たちとも切磋琢磨する。すぐに男を見る目も肥えてくるさ」
碧はかすみを安心させるように親指で彼女の手の甲を撫でた。しかし、前方の夜道を睨み据える魔王の瞳は、かすみには見せないほどの冷酷な光を放っていた。
(南将暉……。お前が何者であろうと、俺の娘に指一本触れさせるわけがない。お前が仕掛けてくる前に、その化けの皮を剥ぎ取ってやる)
車は再び静かに走り出し、早瀬のお屋敷へと向かう。我が子を守るという親たちの強い決意の裏で、南将暉という毒蛇の影が、確実に次世代の未来へと絡みつこうとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




