第20章:嵐の定例会見、暴走執事の電撃乱入(前半)
かすみが涙を流して露村のお屋敷を飛び出した、あの最悪の夜から一夜明けた、火曜日の午前。
都内の高級ホテルに設置された巨大な会見場には、数え切れないほどの報道陣とテレビカメラが集結していた。本日は、泣く子も黙る巨大組織『露村財閥』の定例記者会見の予定だった。しかし、事前の噂では「納屋財閥の令嬢・かすみとの正式な婚約発表がある」と大々的にリークされており、日本中の注目がこの生中継に注がれていたのだ。
フラッシュの嵐が激しく焚かれる中、ステージ中央の壇上に姿を現したのは、昨日かすみに指輪を投げ捨てられたはずの露村隼人だった。
隼人はこれ見よがしに胸元にトゲトゲの薔薇を飾り、カメラに向かってどこまでも傲慢でキザな笑みを浮かべる。
「――皆様、本日はお集まりいただき感謝する。我が露村財閥の今後の展望、そして……かねてより噂されていた、納屋財閥の至宝・納屋かすみ嬢と僕との【婚約】について、ここで正式に発表させていだたく」
パチパチパチと、サクラの拍手が会場に響き渡る。
隼人は昨夜の屈辱など微塵も感じさせない涼しい顔で、カメラの向こうの日本中へ向かって、大嘘の婚約宣言をやってのけたのだ。
テレビの前で、日本中の読者様(国民)が「えっ!? かすみちゃん本当にあのトゲトゲ男と結婚しちゃうの!?」と絶望の悲鳴を上げた、その瞬間だった。
バァァァーーンッ!!!
重厚な会見場の後方の扉が、まるで爆弾でも仕掛けられていたかのような凄まじい音を立てて、左右に激しく吹き飛んだ。
「――静粛に。我が主の耳を汚す大嘘は、そこまでにしていただきましょうか」
地響きのような低い、けれど会場の隅々まで完璧に通る冷徹な声。
一斉に振り返った報道陣のカメラが捉えたのは――端正な高級スーツを完璧に着こなし、メガネの奥の瞳をバキバキと真紅の嫉妬の炎で発光させている、納屋財閥の過保護執事・長谷部誠の姿だった。
誠の背後からは、厳しい表情を崩さないあけみお母様と、静かな威圧感を放つ薫お父様も堂々と並び立って入場してくる。
「な……長谷部長谷部誠!? なぜ納屋財閥の執事がここに……っ!」
壇上で隼人がみるみるうちに顔を真っ赤に染め、驚愕に声を裏返らせる。
「露村隼人様。我がかすみお嬢様は、昨日あなた方の強欲な晩餐の席で、ハッキリと『婚約も結婚もしない』と宣言して我が家へ帰還されました。それをさも婚約が成立したかのように騙るなど……万死。ギガ万死に値する暴挙です」
誠が一歩前へ踏み出すたびに、会場の温度がガクリと氷点下まで下がるような凄まじい威圧感が走る。
露村財閥が仕掛けた大嘘の会見場は、一瞬にして、暴走執事による容赦のない公開処刑の舞台へと変貌したのだった――!
定例記者会見後編に続く




