第340章:甘い蜜の罠、引き裂かれる静寂
「ここは高級スパもあるから、後で利用するといいよ。それにお部屋も、君たちのために特別に用意してあるから、今夜はゆっくりしていってね」
早瀬碧の放つ、刺すような鋭い殺気をその身に浴びながらも、南将暉はどこまでもなだらかで優しい笑みを浮かべ、凛と蓮の前に膝を突くようにして目線を合わせた。
その切れ長の瞳の奥にあるのは、世界有数の大物実業家としての包容力溢れる仮面――そして、その裏側に隠された、「この子たちは俺の血を引く子供たちなのだ」という狂気的な愛着と観察の目だった。
「え……? スパ? 特別なお部屋……?」
突然目の前に現れた見知らぬ、けれど圧倒的なオーラを放つ美形の社長からVIP待遇を提案され、凛と蓮は不思議そうに小さく首をかしげた。
高学年になり、物事の裏表を少しずつ理解し始めていた双子にとって、いくら「パパの知り合い(※実際は創立記念パーティーのゲスト)」だからといって、初めて会ったオーナーからここまで破格の好意を向けられる理由は全く分からなかったのだ。何より、二人の鋭い直感は、この南将暉という男の笑顔の奥から漂う、えも言われぬ冷たい違和感を敏感に察知していた。
「あ、あの……ありがとうございます、南社長。でも、私たちは今日、パパが予約してくれたレストランでお食事をするだけですから……」
蓮が碧のタキシードの裾をそっと握り直しながら、丁寧ながらも距離を置くように答える。
「そうよ、南社長。お部屋なんて、私たちは早瀬のお家が一番大好きだから、もったいないわ」
凛も蓮に合わせるように、無邪気ながらもきっぱりとした口調で、将暉の差し出した甘い蜜の罠を拒絶してみせた。
我が子たちの完璧な防衛反応に、碧は内心で深く満足しつつ、将暉と子供たちの間に完全に割って入るように一歩前に踏み出した。その長身が将暉に巨大な影を落とす。
「……丁重なお申し出、感謝するよ、南社長。だが、妻も子供たちも、私の用意したプランで十分に満足している。君の特別な部屋やスパが必要になることは、今後一生ない」
碧の低く冷徹な声が、ロビーの空気を完全に氷結させる。
子供たちに拒絶され、さらに碧から決定的な拒絶の言葉を突きつけられた将暉の顔から、一瞬だけ紳士の笑みが消えかけ、その整形フェイスの裏で激しい屈辱の嵐が吹き荒れた。しかし、彼はすぐに不敵な笑みを取り戻し、ゆっくりと立ち上がるのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




