第335章:仮面の敗走、狂おしき嫉妬
「……ふっ、さすがは早瀬ホスト。素晴らしいおもてなしの精神ですね」
南将暉は、引きつりそうになる頬の筋肉を必死に制御し、どこまでも紳士的で洗練された笑みを浮かべてみせた。だが、その瞳の奥に広がる暗黒の濁りは、隣に立つ早瀬碧の冷徹な眼差しによって、すでに完全に射すくめられていた。
これ以上、この男の前で無様な動揺を晒すわけにはいかない。将暉はグラスを近くのテーブルへとそっと置くと、かすみに向けて優雅に一礼した。
「ですが、本日は少々長旅の疲れが出てしまったようです。素晴らしいお誘いをいただいたところ大変恐縮ですが、私はここで失礼させていただきますよ、早瀬夫人」
将暉は碧の視線を真っ向から受け止め、不敵な笑みを張り付けたまま言葉を続けた。
「また近いうちに、改めてご挨拶に伺いますので。……それでは、失礼します」
大物実業家としての完璧な礼儀を保ったまま、南将暉は静かにバルコニーを、そして華やかなパーティー会場を後にした。ホテルのエントランスへと向かう彼の足取りは一見堂々としていたが、その背中には、どす黒い敗北感がへばりついていた。
グランドパレスの会場内では、まだオーケストラの美しい調べが響き渡り、創立記念パーティーは最高潮の盛り上がりを見せている。
だが、将暉には、あのきらびやかな場所に一秒たりとも留まることは耐え難かった。
「クソッ……! クソォォォッ……!!」
ホテルの地下駐車場、自身の最高級送迎車のリアシートに乗り込んだ瞬間、南将暉――南条隼人は、端正に整形された顔を激しく歪め、シートを拳で猛烈に叩きつけた。
あそこにいたくなかった。一刻も早く、あの光り輝く空間から逃げ出したかった。
なぜなら――自分の腕の中にいるべきはずの納屋かすみが、早瀬碧の逞しい腕にしがみつき、心からの安心と深い愛をその瞳に宿して、夫へと微笑みかけている姿を目の当たりにしてしまったからだ。
どれだけ海外の泥水をすすり、顔を焼き切り、巨大な富と権力を手に入れて生まれ変わろうとも、彼女の隣には自分がいない。その冷酷な現実が、将暉の独占欲とプライドをズタズタに引き裂いていた。
「早瀬碧……絶対に許さない。かすみ、お前は俺の妻だ……俺だけのものだ……!!」
暗い車内で、男の狂気に満ちた呪詛が低く響く。
捨て台詞通り、彼はすでに次なる「お屋敷への襲撃」という名の最悪の罠を頭の中で描き始めていた。しかし、その背後で、彼の正体の尻尾を掴みかけた魔王・早瀬碧の冷酷な包囲網が、再び静かに狭まり始めていることなど、執着に狂った男はまだ知る由もなかった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




