第319章:暴かれる偽名、戦慄の推測
かすみが深い眠りの中で時折小さく身を震わせるなか、リビングでは貝森拓人とあやめの夫妻が、手元のタブレット端末に映し出された『調査結果』を食い入るように見つめていた。
拓人が動かした貝森財閥の優秀な情報網、そしてこの地域の不動産データを照合した結果――答えはあまりにも早く、そして冷酷に出揃った。
「……やっぱり、いないわね」
あやめはタブレットの画面をスクロールしながら、張り詰めた声で呟いた。
「この別荘地一帯のオーナー、そして最近入居した住民の全リストを洗ってもらったけれど、『南修斗』なんて名前の人物はどこにも存在しない。……あの男、最初から真っ赤な嘘をついて、かすみさんに近づいたのよ」
「やはりな。親切なお隣さんなどというものは、最初から幻だったわけだ」
拓人は厳しく腕を組み、窓の外の暗闇を見据えた。
早瀬のSPたちの包囲網をかい潜り、身元を偽ってかすみの邸宅の台所にまで侵入した男。その目的が、単なる空き巣や偶然の訪問などではないことは、誰の目にも明らかだった。
その時、あやめの脳裏に、先ほど男がかすみに向けていた、あのねっとりとした、狂おしいほどの独着に満ちた視線がフラッシュバックした。
初めて会ったはずの他人に、あそこまでの異様な執念を燃やす男が、この世に何人いるだろうか。
あやめは、自分の腕にぶわっと凄まじい鳥肌が立つのを感じながら、息を呑んで拓人の顔を見上げた。
「ねぇ、拓人さん……。私、とんでもないことを思いついちゃった。……あの男、もしかしたら……『南条隼人』じゃないよね……?」
「な、んだと……っ?」
拓人の端正な顔が、驚愕に大きく見開かれる。
「南条財閥も源ファイナンスも廃業に追い込まれて、あの男はすべてを失ったはずよ。でも……だからこそ、かつての恋人だった納屋かすみさんのことが、未だに忘れられないんじゃないかしら? 自分の人生を狂わせたかすみさんへの逆恨みと、歪んだ未練……。あいつなら、名前を変えて、変装してでも、かすみさんを追いかけてきてもおかしくないわ……!!」
あやめのその言葉は、リビングの重苦しい空気を一瞬で凍りつかせるほどの、確かな戦慄を孕んでいた。
すべてを奪い尽くされた悪党が、執念の化け物となって、すぐ隣の暗闇からかすみを狙っている――。
点と点が最悪の形で繋がり、拓人は即座にスマホを握りしめると、早瀬碧とおじさまへの暗号通信のボタンを激しく押し込むのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




