第315章:忍び寄る毒牙、聖域の境界線
「……すごく顔色が悪いですね。何か、悲しいことや嫌なことでもあったんですか?」
お粥スープを一口食べさせた後、南修斗――南条隼人は、かすみの顔を覗き込むようにして、さらに距離を詰めてきた。その声はどこまでも優しく、傷ついた心に寄り添うカウンセラーのようでありながら、瞳の奥にはギラギラとした醜い好奇心と支配欲が渦巻いている。
「僕で良かったら、何でも話を聞かせてください。一人で抱え込んでいるのは辛いでしょう?」
「あ、あの……それは……」
かすみは激しい悪寒に身を震わせながら、ソファの背もたれへとジリジリと身体を引いた。
記憶の奥底で、かつて自分を狭い部屋に監禁し、同じように執拗に言葉で追い詰めてきた『南条隼人』の影が、目の前の「南修斗」の姿と重なりそうになる。けれど、ショックのあまり麻痺しているかすみの脳は、まだ目の前の男の変装を見破ることができない。ただ、本能的な恐怖だけが警報を鳴らし、呼吸が浅くなっていく。
隼人はかすみのその恐怖の表情を見て、心の中で歪んだ歓喜の声を上げていた。
(そうだ、もっと怯えろ、かすみ。俺の作ったものを口にし、俺の前でその無様な姿を晒し続けろ……!)
彼がさらにかすみの心へと踏み込もうと、その細い肩に手を伸ばした――まさにその瞬間だった。
ガチャリ、と静かな邸宅の玄関の扉が開き、複数の足音がリビングへと近づいてきた。
「かすみさん、ただいま戻りました! 用事が長引いてしまってすみません、体調は……」
「――っ!?」
リビングのドアを開けて入ってきたのは、外出先から急いで戻ってきた貝森拓人と、あやめの夫妻だった。
二人は、リビングのソファのすぐ脇に、見知らぬ見慣れない男が座り込み、かすみに異常な近さで迫っている異様な光景を目にした瞬間、その場に凍りついた。
あやめがハッと息を呑み、拓人の端正な眉が不審げにピクリと跳ね上がる。
早瀬のSPたちが周囲を警戒しているはずのこの療養邸宅に、なぜ部外者が入り込んでいるのか。
「……かすみさん。そちらの方は……お客様、なのですか?」
拓人は、かすみの怯えたような顔色と、男の不自然に整えられた身なりを鋭い目で見据えながら、低く、警戒を孕んだ声で問いかけた。
その声に、南条隼人は一瞬で『南修斗』の仮面を被り直し、立ち上がって人当たりの良い笑みを浮かべてみせたが、拓人とあやめの放つ絶対的な守護者のオーラに、邸宅の空気は一瞬にして張り詰めるような緊張感に包まれるのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




