第314章:甘い毒、支配のプロローグ
台所からトントンと小気味よい包丁の音が響いた後、優しく食欲をそそる香りが廊下を伝ってリビングへと漂ってきた。
ソファに横たわり、術後の激痛と精神的な疲弊でぐったりとしていたかすみは、重い瞼を辛うじて開けた。頭がぼーっとして、現実と夢の境界がまだ曖昧なままだ。
「お待たせしました。本当に簡単なものですけど、温かいお粥スープを作ってきましたよ」
「南修斗」と名乗る男が、湯気の立つお椀をお盆に載せて、穏やかな笑みを浮かべながら戻ってきた。その物腰はどこまでも丁寧で、洗練されている。
「さぁ、食べて下さい。お口に合うといいのだけれど」
男はソファの脇にそっと腰掛け、お椀からスプーンでスープを丁寧にすくい、熱くないように自分の口元で優しく息を吹きかけた。
「あ……ありがとうございます、南さん。でも、自分で食べられますから……」
かすみは申し訳なさから、震える手を伸ばしてスプーンを受け取ろうとした。だが、男はそのかすみの手を、拒絶を感じさせない絶妙な力加減で、すっと遮った。
「ダメですよ、そんなに手が震えているじゃないですか。今は僕に甘えてください」
男の瞳の奥で、冷徹な光が妖しく明滅する。
彼はかすみの拒絶を笑顔で押し切り、スープの載ったスプーンを、かすみの青白い唇のすぐ目の前へと持っていった。
「さぁ、あーんして」
逆らう気力すら残っていなかったかすみは、促されるままに、小さく口を開けた。
南修斗は、愛おしい宝物を扱うような手つきで、一口、かすみの口へとスープを優しく含ませた。
じっとかすみの顔を覗き込み、その唇の動きを食い入るように見つめる男の視線。
「……どうかな?」
男の声が、低く優しく響く。
温かいスープが喉を通っていく。味は確かに美味しいはずなのに、かすみの背中には、なぜかゾワゾワとした言葉にできない悪寒が走り抜けた。この男の顔、この声、この距離感――何か、強烈に悍ましい記憶の蓋が開きそうな、言葉にできない違和感が、かすみの小さな胸をじわじわと締め付けていくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




