第312章:落ちぶれた狂気、波打ち際の執着
灰色の雲が低く垂れ込める、うらぶれた海岸線。
かつて高級スーツをまとい、誰もが見上げる財閥の御曹司として不遜に笑っていた南条隼人の姿は、そこにはなかった。
ブランド物の服はすべて差し押さえられ、今やヨレヨレのコートに身を包んだ彼は、冷たい潮風に吹かれながら、ただ一人ふらふらと砂浜を歩いていた。
「クソッ……どうして俺が、こんなところで泥水をすするような生活をしなければならないんだ……っ」
南条財閥の廃業。源ファイナンスの崩壊。
一瞬にしてすべての権力と財産を早瀬碧とおじさまに奪われ、新妻だった源玲奈ともども社会のゴミのように放り出された。今の隼人は、名前を変え、世間の目を盗んでひっそりと生き延びるだけの、哀れな没落者に過ぎなかった。
だが、そんな地獄のような日々のなかでも、彼の頭からどうしても離れない存在があった。
「かすみ……。納屋かすみ……っ」
隼人は砂を蹴り上げ、呪わしそうにその名前を呟いた。
サファリア女学院の時代、圧倒的なブランド力を誇る納屋財閥の令嬢だったかすみに声をかけ、付き合いもそこそこに結婚したあの華やかな日々。どれだけ彼女を痛めつけ、監禁し、追い詰めようとも、自分の腕の中にいた頃の彼女の、あの儚くも美しい姿が、どうしても脳裏から消えてくれないのだ。
それは愛などという綺麗なものではなく、かつて自分が所有していた『最高のトロフィー』への、醜く歪んだ執着だった。
「全部、あいつのせいだ……。かすみが、最初から俺の言う通りに大人しく操られていれば、俺は今頃、早瀬の財産だって手に入れて、世界を支配していたはずなのに……っ!」
激しい波音にかき消されながら、隼人の目はドス黒い憎悪と未練でギラギラと狂気に染まっていく。
「かすみのせいで、俺は全てを失ったんだよ……!」
自分がかすみに与えた数々の恐怖や、奪ってしまった双子の命の罪など、この男の脳内からは都合よく消去されていた。ただ「かすみにすべてを狂わされた」という一方的な逆恨みだけが、今の彼を突き動かす唯一のエネルギーだった。
隼人はふと、遠くの崖の上に建つ、厳重な警備に守られた白い建物を睨みつけた。
まさか、その静かな療養所の中に、自分が片時も忘れることのできない納屋かすみが身を寄せているとは、この時の隼人はまだ知りもしなかった――。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




