第311章:波音に寄せる懺悔、遠い日の潮風
都会の喧騒から遠く離れた、波の音だけが優しく、どこか物悲しく響く海岸線。
おじさまと早瀬の計らい、そして貝森財閥の長老たちの同意のもと、かすみは人目を避けた静かな療養所での生活を始めていた。
白いカーテンが海風に揺れる部屋の中で、かすみはふと、自分自身の小さくなってしまったお腹をさすり、静かに目を伏せた。
「颯……、瑠璃……」
失ってしまった愛しい双子の名前を呼ぶと、今でも胸の奥がキリキリと引き裂かれるように痛む。けれど、今の彼女の心を何よりも苦しめていたのは、お屋敷で自分の帰りを待っている、残された大切な子供たちへの罪悪感だった。
(私……凛ちゃんと蓮ちゃんには、母親として、何一つしてあげられていない……)
あの子たちは、新しく生まれてくる赤ちゃんを誰よりも楽しみにしていた。
「僕がお兄ちゃんになるんだ!」「私がたくさんお世話してあげるお姉ちゃんになるの!」って、小さなおててを一生懸命に握りしめて、あんなにはりきって誕生を待っていてくれたのに。その健気で純粋な願いを、私は叶えてあげることができなかった。
「みんな、ごめんなさい……。頼りないお母さんで、本当にごめんなさい……」
部屋の中にいると、どうしても自分の無力さに涙が溢れてしまう。かすみは溢れる涙を拭うこともせず、すがるような思いで外へと足を向けた。
一歩外へ出ると、目の前にはどこまでも青く、透明な海が広がっていた。
寄せては返す白い波しぶきを見つめ、冷たい海風を頬に受けているうちに、かすみの脳裏に、かつての遠い、温かい日々の記憶が鮮やかによみがえってきた。
(……かつて、湊くんと百合ちゃんと一緒に、この海でたくさん遊んだね……)
何の憂いも、恐怖もなかった、あの眩しい子供時代の夏の日。波打ち際を追いかけっこして、皆で声を上げて笑い合った、湊くんと百合ちゃんの優しい笑顔。
あの頃の美しい思い出のぬくもりが、傷つき、凍りついていたかすみの心を、静かに、優しく包み込んでいくようだった。
そして、自分がこうして誰とも接せずに静かに心を休めていられるのも、自分の代わりに凛と蓮を守り、お屋敷や学校の準備をすべて引き受けてくれている、大切な存在がいるからこそだった。
(拓人とあやめさん夫婦には……本当に、感謝しきれない……)
二人の無償の愛とサポートがなければ、今頃自分も、そして早瀬の家も完全に壊れてしまっていただろう。
波の音を聞きながら、かすみは自分のために心を痛め、動いてくれているたくさんの人々の『愛』を、肌で感じていた。まだ心の傷が完全に癒えたわけではない。けれど、かつての思い出と、今を支えてくれる人々の温もりを胸に、かすみは海を見つめながら、少しずつ、本当に少しずつ、前を向いて歩き出そうとするのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




