第17章:夜景の丘の誓いときらめく指輪、婚約の晩餐会へ
「さあ、シートベルトをしっかりとお締め。少し遠回りをして、僕たちの愛のお屋敷へ向かうとしよう」
お昼の貴公子・露村隼人の甘く傲慢な言葉とともに、純白のオープンカーは滑らかに走り出した。
夜の心地よい風が、かすみのツインテールを優しく揺らす。いつもなら誠の運転するスモークガラスの奥にいるかすみにとって、こうしてダイレクトに夜風を肌に感じながら走るドライブは、どこか不思議な高揚感と、それ以上の不安があった。
(拓人さん……今頃どうしていらっしゃるのかしら……)
去っていく拓人の後ろ姿への切なさを胸の奥に閉じ込め、かすみが自由帳をぎゅっと抱きしめていると、車は街の灯りを見下ろす静かな高台――夜景の見える丘へと辿り着いた。
「かすみ、車を降りてごらん。最高の景色を君にプレゼントするよ」
隼人に促されて助手席から降りると、眼下にはまるで宝石箱をひっくり返したような、きらびやかな街の夜景が一面に広がっていた。
「まぁ……! なんて綺麗ですの……!」
思わず感嘆の声を漏らすかすみの前に、隼人がそっと歩み寄る。夕陽が完全に沈んだ暗闇の中、街の光を反射する彼の端正な横顔は、完璧な王子様そのものだった。
「綺麗だろう? でも、僕の隣にいる君の美しさには到底敵わない。……かすみ、手を貸してごらん」
隼人はかすみの白手袋の上から優しくその手を取ると、高級なベルベットの小さな箱を取り出した。中できらりと妖しく輝いていたのは、最高級のダイヤモンドが施された、まばゆいばかりの指輪だった。
隼人はかすみの潤んだ瞳をまっすぐに見つめながら、その薬指にそっと指輪をはめた。
「この指輪をつけて、これから僕たちの露村財閥のお屋敷に行くよ。……いいかい、かすみ。僕の、正式な妻として、僕と一緒に我が家へ帰るんだ。今夜は君のために、最高のシェフを集めた特別な『婚約の晩餐会』が待っているからね」
(指輪……! 私、本当に露村様の妻として、お屋敷へ向かってしまうのですの……!?)
薬指に宿ったダイヤモンドの冷たい輝きと、隼人のどこまでも一途で歪んだ独占欲に、かすみの心臓はバクバクと激しく波打った。この先のお屋敷には、一体どんな露村財閥の人々が待ち受けているのだろう。歓迎してもらえるのかしら、それとも――。
「フフ、とてもよく似合っているよ、僕の可愛いお妃様。さあ、晩餐会の会場へ行こう」
隼人に優しく肩を抱かれ、再び助手席へと導かれるかすみ。
遠ざかる夜景の灯りを背に、オープンカーはついに、重厚な門が待ち受ける露村財閥の大豪邸へと滑り込んでいくのだった――。
(第17章・完 / 第18章:波乱の露村財閥お屋敷編へ続く)




