第16章:黄昏の閉幕、本当にやってきたお昼の貴公子!
華やかな喧騒に包まれていたサファリア女学院の学園祭も、夕暮れのチャイムとともに無事に閉幕を迎えた。
あけみお母様と薫お父様の特製フルーツサンドとドリンクは大絶賛のうちに完売し、生徒たちが片付けを始める中、かすみは控室で白手袋をはめ直し、帰る準備を整えていた。
(結局……拓人さんは校舎に入ったきり、一度もこちらに戻ってきてくれませんでしたわね……)
お昼に他の女子生徒たちに連れていかれてしまった拓人の後ろ姿を思い出し、かすみは自由帳を胸に抱きしめて小さくため息をついた。ほっぺへの秘密のキスの余韻が、夕闇に溶けていくようで胸がチクリと痛む。
しかし、そんな切なさに浸る余裕すら、今の状況は許してくれなかった。
「はぁ……。本当に、本当に校門の前に迎えにいらっしゃっているのかしら。お昼の貴公子、露村隼人様は……」
かすみが憂鬱な足取りで誠を従え、夕陽が赤々と染め上げる校門へと歩みを進めると――そこには、お昼の宣言通り、純白のオープンカーのボンネットに腰掛け、夜を待つように佇む隼人の姿が本当にあった。夕陽に照らされた彼の端正な横顔は、不敵な笑みを浮かべている。
「待っていたよ、僕の気高い子猫ちゃん。さあ、約束通り君を迎えにきた。僕の車にお乗り。今夜は僕たちの婚約を祝して、最高の晩餐を用意してあるんだ」
隼人はスマートに車のドアを開け、エスコートの手を差し伸べてくる。
かすみはその美しくも強引な手元を見つめながら、心の中で激しい葛藤と憂鬱に襲われていた。
(このまま、露村様の車に乗ってしまったら……私、本当にこのまま露村財閥のあの大豪邸のお屋敷へと連れて行かれてしまいますのね。……でも、露村財閥の他の方々は、私のことを一体どう思っていらっしゃるのかしら? いきなりお屋敷に伺って、歓迎していただけるのかしら……?)
まだ見ぬ露村財閥の冷徹な大人たちの視線を想像し、かすみの心は不安でバタバタと波打つ。
「お嬢様、ご安心ください。もしあのトゲトゲ薔薇野郎がお嬢様に1ミリでも不敬な態度を働けば、即座に我が納屋財閥の全権力をもって、露村のお屋敷ごとブラックホールへ消去する書類の準備はできております」
誠が背後でメガネをバキバキに発光させ、懐のタブレットを構えているが、今の状況で車を拒む決定打にはならなかった。
拓人の背中を追いかけることもできず、隼人の差し出す高級な罠のような助手席を前にして立ち尽くすかすみ。
夕陽が沈み、夜の帳が下りようとするサファリア女学院の校門前で、お嬢様の運命を揺るがす最大のピンチが訪れようとしていた――!
17章へと続く




