第306章:狂おしい母性、そして復讐の最中に
南条財閥の最高幹部応接室は、まさに言い逃れのできない生き地獄と化していた。
「あ、ああ……っ、頼む、早瀬碧……! 命だけは、会社だけは助けてくれ……っ!」
床に這いつくばり、無様に涙を流して許しを請う南条隼人。その隣では、自慢の資金源である源ファイナンスを早瀬とおじさまの圧倒的な権力によって一瞬で圧殺された源玲奈が、髪を振り乱して呆然と虚空を見つめていた。
だが、早瀬碧の瞳には、一切の慈悲など存在しなかった。
「助けてくれ、だと? 僕とかすみの……颯と瑠璃の未来を奪っておいて、よくそんな言葉がその口から出せたな」
碧は冷酷に言い放ち、同行した国家規模の捜査機関の人間たちに顎で合図を送る。
「こいつらの裏金の履歴、そして神宮寺クリニックを用いた拉致監禁の証拠をすべて公表しろ。文字通り、二度とこの世界の光を浴びて這い上がってこれないように、徹底的に葬り去るんだ」
南条隼人と源玲奈が絶望の悲鳴を上げながら連行されていく。これで、愛しい我が子たちの復讐の第一段階は完了したはずだった。
――その時、碧のポケットの中でスマホがけたたましく鳴り響いた。
画面に表示されたのは、かすみが入院している早瀬系列病院の特別病棟からの緊急連絡だった。
『碧様……っ! 申し訳ありません、大変です……! ベッドで眠っていらっしゃったはずのかすみ様が、どこにもいらっしゃらないのです……!!』
「な、んだと……っ!?」
碧の顔から、一瞬で血の気が引いていく。すべてを奪い尽くしたはずの男の胸に、かつてない恐怖が過った。
同じ頃――。
静まり返った早瀬系列病院の、あの月明かりが美しく降り注ぐ空中庭園に、かすみは再びぽつりと佇んでいた。
まだ術後の激痛が走るお腹を愛おしそうに両手でさすりながら、かすみの瞳には、誰もいない冷たいベンチの横に、仲良く並んで笑っている小さな男の子と女の子の姿がはっきりと見えていた。碧が教えてくれた、愛しい我が子たち――颯くんと瑠璃ちゃんの幻影。
「ふふ……颯、瑠璃。そこにいたのね。やっぱり、ママを待っていてくれたのね……」
かすみは世界で一番優しい、けれど痛々しいほどの微笑みを浮かべ、誰もいない夜風に向かって、そっとその細い両腕を広げた。
「さぁ、ママだよ……。夜風は冷たいから、早くおいで。ママの胸の中で、いっぱいいっぱい抱きしめてあげるからね……」
現実の絶望から心を閉ざし、幻影のぬくもりだけを求める聖母の悲しい叫びが、夜の庭園に静かに溶けていくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




