第302章:魔王の覚醒、宣戦布告
「かすみ……? かすみ、どこにいるんだ……っ!」
医師との話し合いを終え、張り裂けそうな胸を抑えて病室へと戻った早瀬碧を待っていたのは、無残にももぬけの殻となったベッドだった。
引き抜かれた点滴のスタンドが痛々しく残され、まだ温もりだけが残る布団に、碧の心臓がドサリと嫌な音を立てて跳ね上がる。
まだ帝王切開の手術が終わったばかりで、歩くことさえ奇跡なほどの満身創痍なのだ。SPたちを大声で呼びつけ、碧は病院内を必死に捜索し始めた。
「かすみ! かすみ、どこにいるんだ……っ! お願いだ、僕の前から消えないでくれ……!」
狂ったように廊下を走り、階段を駆け上がる。その時、碧の脳裏に先ほどまでかすみが嬉しそうに語っていた「夢の話」が過った。
『私の赤ちゃんはね、子猫と一緒に仲良く並んで寝てるのよ』
「まさか……あの庭園にいるのか……っ!?」
碧は弾かれたように、夜間は誰も立ち入らないはずの空中庭園へと飛び出した。
冷たい月明かりが照らす、静まり返った庭園。
その中央で、碧の目は最悪の光景を捉えた。
「かすみーーーっっ!!!」
草花が夜風に揺れるベンチの横、かすみは病院の薄いパジャマ姿のまま、冷たい床の上に嘘のように倒れ伏していた。その両腕は、まるで何か大切な宝物を胸に抱きしめるかのように、虚空をきつく抱え込んだ形のまま固まっている。
碧は狂おしい悲鳴を上げながら駆け寄り、かすみの細い身体を床から引き剥がすように強く抱き起こした。
「かすみ! しっかりしろ、かすみ!!」
触れた身体は夜風に晒されて氷のように冷たく、額からは苦痛に満ちた冷や汗が滲んでいる。幻影の我が子を抱きしめたまま、術後の肉体の限界を迎えて意識を失ってしまったのだ。かすみの頬には、乾きかけた涙の跡が白く残っていた。
愛しい妻のボロボロの姿をその腕に抱きしめた瞬間、碧の心の中で、南条隼人への最後の「人間としての理性の壁」が、完全に音を立てて崩壊した。
悲しみは、すべてを焼き尽くす冷徹な殺意へと姿を変える。
かすみを駆けつけた医師たちに託すと同時に、碧は血の滲む拳でスマホを掴み、おじさまの直通回線へと即座にダイヤルした。
プルル、と一回も鳴らないうちに、画面の向こうでおじさまが低く重い声で応じる。
碧は溢れ出そうになる激昂を獰猛な冷笑へと変え、受話器の向こうの絶対的な権力者へ向けて、ハッキリと、冷酷に言い放った。
「……おじさま。僕だ」
一瞬の沈黙の後、碧の瞳に宿る漆黒の業火が、夜の闇を鋭く射抜く。
「今すぐ、南条財閥を始末しろ。……あの男が持っているもの、関わっている人間、新しい結婚相手の家系も含めて、すべてを根こそぎ、地獄の底へ叩き落とせ」
それは、早瀬ホールディングスによる、南条隼人への完全なる破滅の宣告だった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




