第298章:残酷な楽園、そして暗転
激痛で何度も途切れそうになる意識を、南条隼人への燃えるような憎しみだけで繋ぎ止め、かすみはついに、かつて自分を恐怖の底に突き落としたあの忌まわしい大邸宅の扉を押し開けた。
早瀬のSPたちが慌てて追ってきている気配が遠くでする。けれど、今の彼女を止められるものは、この世界のどこにも存在しなかった。
「南条、隼人……っ!!」
血が滲むパジャマ姿のまま、リビングへと踏み込んだかすみ。
しかし、そこで彼女が目にしたのは、あまりにも凄惨で理不尽な光景だった。
そこには、豪華なソファに腰掛け、何事もなかったかのように優雅にティーカップを傾ける南条隼人の姿があった。そして――彼のすぐ隣には、かすみの知らない、華やかなドレスを身にまとった若い女性が、親しげに寄り添い微笑み合っていたのだ。
「あら、隼人様。この薄汚れた不審者はどなたかしら?」
新しい奥様が、かすみをゴミを見るかのような冷たい目で見下ろす。
「南条……隼人……。あなた、は……っ」
かすみの頭の中で、何かが音を立てて崩れ去った。
自分を執拗に追い回し、不妊治療の末にようやく授かった碧との愛の結晶を、その悍ましい悪意で引き裂き、奪い去った男。自分が病院の冷たいベッドで地獄のような絶望に涙しているその時に、この男は、さっさと別の『新しい奥様』を迎え、何一つ変わらない贅沢な楽園の中で笑っていたのだ。
「私の赤ちゃんを……っ、私の赤ちゃんを、返してよぉぉぉーーーっっ!!!」
狂おしいほどの絶叫が、喉を切り裂いて響き渡る。
かすみは激痛に震える手を伸ばし、南条隼人へと掴みかかろうとした。すべてを奪ったあの男の胸ぐらを掴み、我が子の命を返せと叫びたかった。
だが、帝王切開の手術直後である肉体の限界は、とうに超えていた。
「っ、あ……」
目の前が、急激に真っ暗に染まっていく。
激しい下腹部の激痛と、精神的な大ショックが、かすみの細い身体から最後の気力を奪い去った。
「かすみーーーっっ!!!」
間一髪で邸宅へと踏み込んできた碧の、張り裂けんばかりの叫び声が遠くで聞こえたような気がした。かすみは南条隼人とその新しい奥様の冷徹な視線を浴びながら、そのまま冷たい床の上へと崩れ落ち、深い、深い意識の闇の中へと静かに沈んでいくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




