第296章:復讐の産声
「……いない。私の、赤ちゃんが……いないの」
病室のベッドの上で、かすみはぽつりと呟いた。
激しく泣き叫んだ後の彼女の瞳からは、すべての感情が消え失せ、まるでガラス玉のように虚ろな光を宿している。
側で寄り添い、必死にその手を握りしめる碧の言葉も、今の彼女の耳には冷たい砂のようにこぼれ落ちていく。お腹の上に置かれたかすみの両手は、もう何も中に入っていない冷たい現実を拒絶するように、ぎゅっとマタニティドレスを掴んでいた。
(どうして……? どうして、私の赤ちゃんが死ななければならなかったの?)
微睡みの中で見た、子猫と並んで眠る温かい我が子の夢。あの幸せを、未来を、容赦なく踏みにじり、引き裂いたのは誰だ。
「……南条、隼人」
かすみの唇から、呪詛のような低い声が漏れた。
そうだ、すべては全部、あの男がいけないのだ。
神宮寺クリニックを操り、自分を拉致監禁し、数え切れないほどの恐怖とストレスをこの身体に植え付けた、あの冷酷な悪魔。あの男の悪意さえなければ、今頃我が子は碧の腕の中で、元気に産声を上げていたはずなのに。
「私の赤ちゃんを……返してよ……っ」
ドロリとした暗い怒りが、かすみの全身の血を駆け巡る。
虚ろだった瞳に、突如として激しい憎悪の炎が灯った。かすみは碧が医師と次の処置を相談するために病室を出た一瞬の隙を突き、まるで何かに取り憑かれたようにベッドから静かに立ち上がった。
「かすみお姉ちゃん……?」
病室の隅で不安そうに見守っていた子供たちが息を呑む。
「みんな、ごめんなさいね……。私は、行かなくちゃいけないの」
まだ手術の傷が引き裂かれるように痛む。けれど、今の彼女にはそんな痛みなど微塵も感じられなかった。
かすみは点滴の針を自ら引き抜き、溢れ出る血を気にも留めず、病院のパジャマのまま静かに歩き出した。引き止める拓人やあやめの声、泣きじゃくる子供たちの声を背に受けながら、かすみはただ一つの目的地だけを見据えていた。
地獄の底から這い上がった聖母は、いま、すべての元凶である南条隼人の元へと向かったのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




