第293章:命の灯火、そして残された者たち
手術室の赤いランプが、静かに消えた。
しかし、扉が開いた瞬間に流れ出してきた空気には、奇跡の生還を喜ぶような温かさは微塵もなかった。
廊下で待ち続けていた碧は、弾かれたように立ち上がり、執刀医の元へ駆け寄る。その後ろでは、拓人とあやめに抱きしめられた凛、蓮、そして湊くんと百合ちゃんが、固唾を呑んで医師の顔を見つめていた。
「先生……っ! かすみは……赤ちゃんは……っ!?」
碧の悲痛な問いかけに、医師はゆっくりと首を振った。その重苦しい沈黙が、すべてを物語っていた。
「……申し訳ありません」
医師は帽子を脱ぎ、碧、そしてその場にいる子供たちや貝森夫妻の全員に向けて、深く、重く頭を下げた。
「緊急手術は終わり、母体であるかすみさんの命に別状はありません。ですが……お腹の赤ちゃんは、ダメだった。私たちの力不足です。本当に、申し訳ありません……」
「っ……、ああ……っっ!!!」
その場に、碧の魂が引き裂かれるような絶叫が響き渡った。
碧は力なく壁に崩れ落ち、自身の顔を両手で覆って激しく肩を震わせた。嘘だと言ってくれ、夢だと言ってくれと、心の中で何度叫んでも、目の前の現実はびくともしない。
「そんな……嘘、でしょ……?」
あやめが口元を両手で押さえ、大粒の涙を流して拓人の胸に顔を埋めた。拓人もまた、きつく奥歯を噛み締め、悔しさと哀しみのあまり天を仰ぐ。
「かすみお姉ちゃんのお腹の赤ちゃん……死んじゃったの……?」
蓮が凛の服の裾を強く握りしめ、声をあげて泣き出した。凛も、湊くんも、百合ちゃんも、お互いに抱き合いながら、病院の冷たい廊下で涙を流し続けることしかできなかった。あんなに楽しそうに新しい首輪を選んでいた子供たちの笑顔は、一瞬にして消え去ってしまった。
医師は悲痛な面持ちのまま、涙に暮れる碧の肩にそっと手を置いた。
「かすみさんは、まだ麻酔から覚めていません……。ですが、目が覚めた時、彼女の受ける精神的な衝撃は計り知れないものになります。どうか、碧さん、そして周りの皆様……かすみさんには、徹底的な心のケアをお願いします。彼女を一人にしないで、支えてあげてください」
「かすみ……かすみ……っ」
碧は朦朧としながら、医師の言葉を胸に刻むように何度もかすみの名前を呟いた。
南条隼人のもたらした悍ましい悪意の爪痕は、かすみから最も大切な、碧との愛の結晶を奪い去っていったのだ。
麻酔で眠り続けるかすみの、まだ何も知らない穏やかな寝顔の向こうで、残された者たちの終わらない涙の夜が、静かに始まろうとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




