第292章:引き裂かれる心
赤い「手術中」のランプが、無機質な病院の廊下を冷たく照らし出していた。
手術室の中では、早瀬ホールディングスが誇る最高峰の医療チームが、一刻の猶予もない過酷な戦いを続けていた。かすみの呼吸管理、血圧の維持、そしてお腹の中の赤ちゃんの心音――すべてが危険な数値を彷徨っている。
「――これ以上、お腹の中に留めておくのは限界だ。母体も持たないぞ!」
執刀医が鋭い声をあげ、モニターの数値を睨みつけた。
「子宮内の圧力が上がりすぎている。今すぐ、赤ちゃんを出しましょう! 帝王切開に切り替える、急げ!!」
医師たちの迅速な手際によって、かすみの命、そしてまだ見ぬ小さな命を救い出すための最後の決断が下された。
一方――。
手術室の重い扉の外では、碧が狂いそうなほどの不安の渦の中に立たされていた。
長い廊下のベンチには、拓人とあやめに寄り添われた子供たちが、声を殺して泣きながら祈り続けている。碧は壁に頭を押し付け、自身の髪を激しく掻きむしりながら、ただただ冷たい床を見つめていた。
(かすみ……赤ちゃん……お願いだ、助かってくれ……っ)
もしも、もしも万が一のことがあったら――。
碧の脳裏に、最悪の結末が容赦なく過る。あまりの恐怖に、心臓が爆発しそうだった。
(かすみが目覚めたら……僕は、なんて言えばいいんだ……?)
あんなに幸せそうに、お腹を撫でて胎動を喜んでいたかすみ。子供たちと一緒に、猫ちゃんの首輪を選んで微笑んでいたかすみ。彼女が麻酔から覚めて、真っ先に向けるであろう「赤ちゃんは?」という問いかけに、自分はどう答えるべきなのか。
(『赤ちゃんは大丈夫だよ』って、嘘でも笑って言うべきか……?)
(それとも……『ダメだった』なんて……そんな残酷なこと、僕の口からなんて、とても言えなかった……)
絶望の選択肢が、碧の心をズタズタに引き裂いていく。愛するかすみをこれ以上傷つけたくない、けれど、もしもの現実を伝える強さなど、今の碧には微塵も残っていなかった。
「碧お兄ちゃん……かすみお姉ちゃん、大丈夫だよね……?」
蓮が涙で濡れた目で碧の服の裾を掴む。碧は応える言葉も見つからず、ただ蓮の小さな肩を強く抱きしめることしかできなかった。
その時――。
ガチリ、と手術室の重い扉が開き、張り詰めた空気の中に医師が姿を現した。その表情は、言葉を失うほどに険しいものだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




