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サファリア女学院から青藍高校へ潜入!? 〜お嬢様の「普通の恋」は、完璧な執事が絶対に許しません〜』  作者: 琥珀かえで


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サファリア女学院から青藍高校へ潜入!?【後編】

絶対的ボス・森野海斗率いる不良軍団の乱入により、ホールは凍りつくような緊張感に包まれていた。海斗の鋭い眼光がかすみを見下ろし、誰もが息を呑んだ――その時。

「あらあら、懐かしいわねぇ。私たちが通っていた頃と、ホールの雰囲気はちっとも変わっていないわ」

「ああ、本当に。ここで君と出会った日のことを思い出すよ、あけみ」

カツーン、カツーンと、そんな一触即発の空気をまったく読まない優雅な足音と共に現れたのは、かすみの母・納屋あけみと、父・森野薫だった。

「お、お父様! お母様! どうしてここに……っ!?」

かすみが目を丸くする中、二人は笑顔で不良軍団の間をすり抜け、かすみの元へと歩み寄る。

「実はね、私たち二人ともここの卒業生なのよ。ねえ、薫さん」

あけみは楽しそうにクスクスと笑い、不良たちに向かって優雅に微笑んだ。

「私は昔、納屋財閥の一人娘として、毎日執事の運転する高級車でサファリア女学院へ登校していたの。そんなある日、お友達に誘われて青藍高校の学園祭に遊びに来たのが、この人――薫さんとの出会いだったのよ」

あけみ様の言葉に、薫も優しく目を細めて当時を振り返る。

「そうだったね。私は当時、青藍高校に通っていてね。学園祭で焼きそばの模擬店をやっていたんだ。そこへ、信じられないほど綺麗で上品なお嬢様がやってきて……」

『あら、焼きそば、とっても美味しそう。あの一つ頂いてもよろしくて?』

「あけみがあまりにも綺麗だったものだから、私は完全に一目惚れして見惚れてしまってね。焼きそばを渡す手がおおいに震えてしまったよ。その後、すぐに僕から『あの、後で連絡先を交換しましょう!』って、必死に声をかけたんだ」

「ふふ、あの時の薫さん、顔を真っ赤にしてとっても可愛らしかったわ」

大御所二人の突然のノロケ話に、ホールの緊張感は一瞬で霧散した。

「……おい、ボスの親父さんとお袋さん、ここでナンパして結婚したのかよ」

「焼きそばから始まる納屋財閥の恋、スケールデカすぎだろ……」

早瀬碧や中本凛たち不良軍団も、これには呆気にとられてポカンとするしかない。

「さあ皆様、昔話はこのくらいにして、お昼にいたしましょう。今日は私が特製ランチをご用意いたしましたの」

あけみの合図で、お抱えのシェフたちが最高級の料理を次々とテーブルに並べ始める。

そんな豪華な料理が並ぶ中、番長である海斗は、バツが悪そうにそっぽを向きながら、自分が持ってきたお手製のお弁当箱をかすみの前に差し出した。

「……おい。お嬢の口に合うか分からねぇが、これ、俺が作った卵焼きと唐揚げだ。食うなら食えよ」

「まぁ……! ありがとうございます!」

かすみは目を輝かせながら、まず卵焼きをそっとお箸でつまみ、パクリと食べた。

もぐもぐ、と愛らしく口を動かしたかすみは、一瞬でその瞳をキラキラと輝かせる。

「……! 美味しい……! すごく優しいお味がします。私、こういう『素朴な味』って本当に大好きなんです!」

続いて、カラリと揚がった茶色い唐揚げを小さなお口でサクッと齧る。ジュワッと広がる旨味に、かすみは両手を頬に当てて大感動した。

「美味しい……っ!! こんなに、こんなに美味しい食べ物がこの世にあったなんて……! お肉がとってもジューシーで、私、こんなに感動したの初めてです!」

普段、世界中の最高級食材しか食べてこなかったお嬢様にとって、庶民の王道「唐揚げ」の破壊力は凄まじかった。かすみは興奮冷めやらぬ様子で、海斗に一歩詰め寄ると、上目遣いでまっすぐに見つめた。

「あの、番長さん! もしよろしければ……今度、番長のお家に行ってもいいですか!? この唐揚げの作り方、ぜひお家で教えていただきたいんです!」

「ぶふっ……!!!???」

海斗はついにキャパシティを完全に突破し、顔から湯気を出してその場にドサリと崩れ落ちそうになった。周りの不良たちも「ボスが家デートの約束取り付けたぞ!」「お嬢をボロアパートに呼ぶな、一国を買い取って城を建てろ!」と大お祭り騒ぎだ。

だが――ホールの気温は、ついにマイナス180度に達した。

パキィッ!!!

誠の脳内で、何かの堪忍袋の緒が完全にぶち切れる音が響く。背後から立ち上る黒いオーラが、もはや物理的な質量を持ってホールを圧迫し始める。誠の眼鏡の奥の瞳は、完全に漆黒の深淵と化していた。

「お嬢様……。今、なんと仰いましたか?」

誠は音もなく海斗との間に割り込むと、かすみの肩をガッチリと抱き寄せ、自分の背後に完全に隠した。その声は、怒りのあまり逆に恐ろしいほど静かで冷徹だ。

「お嬢様を、このようなドブネズミの巣窟へ足を踏み入れさせるなど、断じて……断じて認めません。その『唐揚げ』なる油まみれの茶色い物体に騙されてはいけません。お屋敷に戻りましたら、私が専属の一流シェフをフランスから呼び寄せ、油分を99%カットした至高のトリュフ風味チキンを3日3晩作り続けさせます」

誠はへし折ったフォークを握り直さんばかりの勢いで、気絶しかけている海斗を冷酷に見下ろした。

「青藍高校の皆様。お嬢様がそちらの邸宅へ伺うなど、100億年早うございます。もしお嬢様が1歩でもそちらの敷居を跨ごうものなら、その前に私がその建物を敷地ごと買い取り、ブルドーザーで更地にして『お掃除』させていただきますので、どうぞ御命をお大事になさってくださいね」

「ま、誠さん! お家を更地にしちゃダメ! もう、皆様ごめんなさいねっ!」

そんな大騒ぎのランチタイムも終わりを告げ、サファリア女学院の帰りのバスが門の前に用意された。

「お嬢、今日はありがとな。これ、マジで楽しかったわ」

山野大翔ひろとや岩野凌駕たちチャラ男組が、名残惜しそうにバスの窓越しに声をかける。

「今度はさ、みんなでファミレス行こうぜ! 奢ってやるからよ!」

「ファミレス……?」

かすみは、聞いたことのないその響きに、不思議そうにコテンと首をかしげた。

「ファミレスって、なぁに……?」

お嬢様の純粋無垢な疑問を残したまま、送迎バスはゆっくりと走り出す。

その言葉を聞いた誠が、静かに眼鏡を光らせながら「ファミレス……ジャンクフードの巣窟ですか。断固として阻止せねばなりませんね」と車内で低く呟いているのを、かすみはまだ知る由もなかった――。

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