第2章:サファリア女学院から青藍高校へ潜入!?【前編】
「皆様、今日は青藍高校との交流会です。くれぐれもサファリア女学院の生徒として、品のあるお上品な振る舞いをお願いしますね。我が校の誇りを胸に、美しい交流をいたしましょう」
サファリア女学院の理事長先生による、凛とした品格に満ちた号令が車内に響き渡る。お嬢様たちの安全と品位を完璧に守るため、もちろん先生方も全員同行での公式行事だ。
そんな中、送迎バスのシートに座るかすみは、窓の外を流れる景色を見つめながら胸の奥をトクトクと高鳴らせていた。
(はぁ……いよいよ、男の子たちの学校に着いちゃった……)
実は今日のために、かすみはほんの少しだけ、普段はしないような特別なおめかしをしてきていた。リップをいつもより少しだけ艶やかな桜色のものに変えて、髪の隠しピンもこっそり可愛いものに変えてみて……。
(……うん、これくらいなら、ちょっぴりだし、誰にもバレてないよね?)
かすみが緊張と気恥ずかしさで少し火照った頬を両手で押さえていると、その斜め後ろ footsteps から、すうっと冷徹で、けれど底知れない執着を孕んだ視線が注がれた。
「お嬢様」
音もなく鋭いツッコミを入れてきたのは、完璧な執事の誠だった。誠は眼鏡の位置をミリ単位で直すと、いつもの張り付いたような笑顔のまま、しかしその瞳の奥を怪しく光らせる。
「本日はいつもと違う、大変愛らしい桜色のリップクリームをお使いですね。さらに、左側の髪を留めるピンも、お嬢様が3歳になられた際、大旦那様がフランスの老舗ジュエラーに特注された世界に一つしかない一点物のダイヤピン……。私への事前報告なしでの『おめかし』、非常に素晴らしい、いえ――一体どこのドブネズミに見せるためにそこまで美しくあられたのか、この誠、気になって仕方がありません」
「ひゃいっ!? ま、誠さん、どうして分かっちゃうの……っ!?」
かすみが大慌てで顔を真っ赤にする中、送迎バスの重厚なドアが開き、一行はついに青藍高校の校門へと降り立った。
その瞬間、辺りは熱き男子校のエネルギーで一満ち溢れた。校舎の窓という窓から、青藍高校の男子生徒たちが一斉に身を乗り出して大騒ぎしている。
「おい見ろよ! サファリアのバスから降りてきたぞ!」
「マジかよ、めちゃくちゃかわいい……!」
「おい、後で絶対に声をかけに行こうぜ!」
そんな賑やかな歓声が響き渡る中、校内スピーカーからピンポンパンポン、とチャイムが鳴り響いた。
『――青藍高校の生徒の皆様、至急ホールに集まってください。ただいまよりサファリア女学院との交流会を実施しますので、全員速やかに移動してください』
放送の指示に従い、サファリア女学院の生徒たちと先生方は、案内された広々としたホールへと移動を始めた。
天井が高く、男子校らしい力強さのあるホール。かすみがお上品に手を前に組みながら、ますます胸をドキドキさせていると、ホールには青藍高校の生徒たちも続々と集まり、いよいよ交流会がスタートしようとした――その時だった。
バタン!!!
ホールの重い扉が、凄まじい音を立てて乱暴に押し開けられた。
ざわざわとしていた空間が、一瞬にして凍りつく。
カツーン、カツーン、と静まり返ったホールに響き渡る規則正しい足音。
そこに現れたのは、長ランを肩に羽織り、圧倒的な威圧感を放つ番長・森野海斗を先頭にした、青藍高校のトップ不良軍団だった。
メガネの奥に鋭い知性を光らせるインテリの早瀬碧。
凄まじい気迫で睨みをきかせるリーゼント番長の中本凛。
気だるげにヘッドホンを首にかけた杉野航に、派手なメッシュ髪がトレードマークの山野大翔、外見に一家言ある岩野凌駕。
まるで『大名行列』さながらのド迫力でホールの真ん中を堂々と突き進んでくる彼らの姿に、サファリアの先生方も生徒たちも、恐怖で息を呑んで壁際に身を寄せる。
そんな恐怖の軍団の端っこで、どこかマイペースに歩いていた貝森拓人は、前列で身をすくめているかすみの姿に目を留めた。
フランスの一点物のダイヤピンをきらめかせ、ほんの少しだけおめかしをして、潤んだ瞳でこちらを見つめている純真無垢なお嬢様。
「……あっ、かわいい」
拓人の口から、思わず小さな呟きが漏れ聞こえる。
しかし、そんな甘い雰囲気など吹き飛ばすように、先頭を歩く絶対的ボスの海斗が、かすみの目の前でピタッと足を止めた。どすの利いた凄まじい眼力が、まっすぐにかすみを見下ろす――。
サファリア女学院の品格と、青藍高校の恐怖の不良軍団。
一触即発の緊張感の中、一体かすみお嬢様はどうなってしまうのか!?
(後編に続く)
いよいよサファリア女学院と青藍高校の交流会です、後編に続く




