第279章:王国の庇護と、新たなる病院
「かすみ。神宮寺クリニックに通うのは、もう終わりにしよう」
応接室に響いたおじさまの怒号の余韻が残る中、早瀬碧はかすみの両肩を優しく、けれど包み込むような強さで抱きしめながら、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめて告げた。
かすみはまだショックで少し潤んだ瞳を上げ、碧の端正な顔を見つめ返す。
「神宮寺クリニックから――俺たち『早瀬ホールディングス』の系列病院に切り替えるんだ」
「早瀬ホールディングスの、系列病院……?」
「ああ。あそこなら、最先端の医療設備が揃っているだけでなく、セキュリティも我が社の最高機密レベルで徹底されている。スタッフの身元調査から防犯カメラの管理、情報漏洩の対策まで完璧だ。南条隼人がどれほど大金を積もうが、逆立ちしようが、絶対に立ち入ることも情報を盗むこともできない。……何より、俺の目が24時間完全に行き届く場所だからね」
碧の迷いのない力強い言葉に、かすみは胸の奥の支えがフッと軽くなるような、言葉にできない安堵感を覚えた。
お腹の新しい命を狙う、南条隼人の見えない影。神聖であるべき病院すら信じられなくなっていたかすみにとって、碧が用意してくれた「早瀬の庇護」という名の絶対的な盾は、何よりも心強い特効薬だった。
「神宮寺クリニックには、私から直々に連絡を入れておくから、かすみちゃんは何も心配しなくていいよ」
デスクの前で腕を組んでいたおじさまが、まだ怒りの火を微かに瞳に宿しながらも、かすみに向けて父親のような優しい笑みを浮かべて請け負った。
「今回のネズミの件も含めて、神宮寺の院長にはガツンと私から抗議の連絡を入れておく。身内の不祥事だ、あちらも二度とかすみちゃんに近づくような真似はさせないと誓うだろう。だから、かすみちゃんはただ、碧の言う通りに安全な場所で、お腹の子と一緒にゆったりと過ごすことだけを考えておくれ」
「おじさま……、碧さん……」
かすみの瞳から、今度は嬉しさと感謝の涙が、一滴、頬を伝って零れ落ちた。
「ありがとう、ございます……。みなさんがいてくれて、私、本当に幸せです……っ」
「泣かないで、かすみ。お前と、このお腹の赤ちゃんを守るためなら、俺は早瀬ホールディングスの全力を尽くす。……いや、俺のこれまでの人生のすべてを賭けてでも、お前たちを幸せにするよ」
碧は愛おしそうにかすみの涙を親指で拭うと、その額に優しく口づけを落とした。
傍らで見守るあやめと拓人、そして貝森財閥の孝雄とあずみ夫妻も、ようやく少しだけ表情を和らげ、二人の強い絆に温かい拍手を送るように目を細めていた。
南条の悪意によって一度は凍りついたお屋敷の中に、早瀬碧の圧倒的な愛の光が、再び確かな温もりを取り戻させていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




