第277章:裏切りの白衣、迫る影
「――神宮寺クリニック。全ての糸口は、あそこにあったんだ」
おじさまの邸宅の応接室。ノートパソコンに表示された防犯カメラの解析データと、貝森財閥の息がかかった調査員からの報告書をデスクに叩きつけながら、早瀬碧は低く、地を這うような声で告げた。
おじさま、そして貝森財閥の孝雄、あずみ、拓人、あやめ。全員の視線が、碧が指し示した一枚の車両写真へと集中する。そこに写っていたのは、神宮寺クリニックの駐車場から、かすみたちを乗せた車を執拗に追尾する、一台の黒い高級セダンだった。
「やっぱり……! クリニックを出た直後から、かすみさんたちの車を尾行していたのね!」
あずみが鋭く息をのむ。おじさまの邸宅という完璧な隠れ家が割れたのは、他でもない、昨日のかすみの通院の瞬間を南条隼人に狙われたからだったのだ。
しかし、なぜ南条隼人は、かすみが『神宮寺クリニック』に行くこと、そしてお腹に赤ちゃんを宿したことを、あれほど正確に把握できたのか。その最大の謎に対する答えを、孝雄が冷徹な瞳で資料をめくりながら突き止めた。
「南条隼人の過去の通院履歴を洗わせた。……やはりな。あいつは以前、一度だけだが、神宮寺クリニックにかかったことがある」
「南条隼人が……あのクリニックに……っ?」
かすみは碧の腕の中で、恐怖に顔を青ざめさせながら呟いた。
「ああ。南条財閥の強大な財力と権力、そしてあいつの歪んだ執念だ。一度でも接点ができれば、病院の内部に金を掴ませて抱き込むことなど、あいつにとっては容易いことだったんだろう。……つまり、クリニックの医療従事者の中に、南条に魂を売った内通者がいる。そいつが、かすみが受診した内容と、お腹に新しい命がいるという極秘の情報を、リアルタイムであいつに教えたんだ」
碧の言葉が、重苦しく応接室に響き渡る。
神聖であるべき病院の中に、かすみの情報を売り払った裏切り者がいた。その事実が、かすみの胸を激しく締め付ける。
「そんな……。先生はあんなに優しく、私とお腹の子を心配してくれたのに……。誰かが、あの男に私とお腹の赤ちゃんのことを……っ」
悔しさと恐怖でボロボロと涙を流すかすみを、碧は壊れ物を抱きしめるように、さらに強くその胸に抱きとめた。その背中越しに、碧はおじさまと孝雄に向けて、冷酷なまでの決意を秘めた目を向ける。
「病院のネズミは、俺たち貝森と早瀬の力で今すぐ特定して叩き潰す。南条隼人……医療の場まで汚してかすみを追い詰めるお前のやり方、絶対に許さない……っ!」
敵の卑劣な罠の全貌が見えた瞬間。守護者たちの怒りは、南条財閥を根底から震撼させるほどの静かな嵐へと変わっていこうとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




