第276章:見えない視線と、募る疑惑
サンルームから場所を移し、おじさまの邸宅の重厚な応接室には、かすみを守るために信頼できる身内が一堂に集まっていた。
早瀬碧、おじさま、あやめと夫の拓人。そして、連絡を受けて急遽駆けつけた貝森財閥の孝雄とあずみの夫妻。現在のビジネス界や財閥の最前線を走る大人たちが揃った部屋の中には、南条の仕掛けた悪意の手紙を前に、一様に険しい表情が広がっている。
かすみは、サンルームで無邪気に猫の親子を見守っている子供たちの姿を背に、集まった一同を真っ直ぐに見つめた。
「……みなさん、聞いてください。子供たちが、あの猫の親子をお家で飼いたいと言っているんです」
かすみは努めて冷静に、けれどお腹の新しい命を守る母親としての優しさを込めて言葉を続けた。
「あの猫たちには、何の罪もありません。南条隼人に利用されて、ただここに迷い込んできただけの、可哀想な親子です。だから、私……子供たちと一緒に、ちゃんとお世話をしてあげたい。……でも」
そこで一度言葉を区切り、かすみは潤んだ瞳を碧、そして孝雄やおじさまたちへと向けた。胸の奥で冷たく渦巻く、どうしても拭い去れない最大の恐怖と疑問を、静かに、けれどハッキリとした声で吐き出す。
「猫には罪はないけれど……どうして、私がここにいるのを南条隼人は知っているの……?」
かすみのその一言に、応接室の空気がピキリと凍りついた。
このおじさまの邸宅は、南条財閥の目からかすみを隠すための、最も安全で厳重に秘匿された隠れ家のはずだった。貝森財閥のネットワークや、碧の徹底したスケジュール管理をもってしても、南条に居場所を特定されるような隙は1ミリもなかったはずなのだ。
「……確かに、かすみさんの言う通りだ。どこかで情報が漏れているとしか思えない」
拓人が腕を組み、苦渋に満ちた表情で低く呟く。
「南条財閥の財力を使って、裏から手を回したのか。それとも、私たちの身近に……」
あずみが言葉を濁し、孝雄もまた、南条の底知れない執念深さに冷徹な視線を走らせる。
「どうして……どうしてあんなに正確に……」
かすみが自身の肩を抱きしめて小さく震えると、碧はすかさずその細い体を強く、引き寄せるように抱きしめた。
「大丈夫だ、かすみ。原因は、俺たち大人全員で必ず突き止める。南条の仕掛けが何であろうと、俺がお前とお腹の赤ちゃんを、命に代えても守り抜くから」
耳元で囁かれる碧の力強い言葉に、かすみは小さく頷いた。
しかし、暴かれた南条隼人の見えない視線は、集まった大人たちの心に、決して消えない巨大な疑惑の影を落とすのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




