第275章:暴かれた悪意と、母の決意
「ねぇ、ママ! この猫ちゃんたち、ここで飼ってもいいよね?」
サンルームには、先ほどの不穏な空気など微塵も気づいていない子供たちの、元気で明るい声が響いていた。
凛と蓮、そして湊くんと百合ちゃんの四人は、ミルクを飲み終えて毛づくろいをする猫の親子をキラキラとした目で見つめている。百合ちゃんがあやめの服の袖をきゅっと引っ張り、一歩前に出た。
「お兄ちゃんたちも湊くんも、みんなでお世話するって約束するから! お願い、ママ!」
「そうだよ、僕たちがちゃんとご飯もあげるし、お掃除もするから!」
蓮と凛も声を合わせ、あやめに向けて必死に両手を合わせておねだりをする。あやめは子供たちの優しい心根に目を細め、「ふふ、そうねぇ。おじさまにも相談してみましょうね」と、困ったように、けれど温かく微笑み返していた。
そんな微笑ましい光景のすぐ傍らで、かすみはガタガタと震える指先で、先ほど拾い上げた小さな紙切れを握りしめていた。
『いつか必ず迎えに行くから待っててね』
隼人の歪んだ文字が、脳裏に焼き付いて離れない。恐怖で足がすくみ、今すぐ耳を塞いで逃げ出してしまいたかった。
けれど、かすみは自分のお腹にそっと手を触れる。ここには、碧との愛の結晶である新しい命がいる。子供たちの無邪気な笑顔もある。自分がここで怯えて隠れていたら、大切なみんなを守ることなんてできない――。
かすみは深く、深く呼吸を吸い込み、恐怖を打ち消すようにして、毅然と顔を上げた。
「……あやめさん。そして、碧さん、おじさま」
その震えつつも、どこか凛とした強さを孕んだかすみの声に、サンルームにいた全員の視線が一斉に彼女へと集まった。オフィスから様子を見に戻ってきていた碧が、かすみのただならぬ表情に気づいて、瞬時に表情を強張らせる。
「かすみ……? どうしたんだ、そんなに青い顔をして」
かすみはゆっくりと立ち上がると、碧やおじさま、あやめが集まる中央へと歩み寄り、意を決して言葉を紡いだ。
「このことを、みんなに報告します。……隠してはいけないと思うから」
かすみは固く結んでいた右手をゆっくりと開き、テーブルの上にぽつんと、母猫から外したばかりの革製の首輪と、小さく折り畳まれた一枚の紙切れを差し出した。
「この母猫の首輪と、この紙を……見てください」
「これは……南条の紋章か!?」
おじさまが首輪の銀色に光るプレートを見て、鋭く息をのんだ。
碧がすぐさまその紙切れを取り上げ、中身を広げる。そこに書かれた隼人の狂気的なメッセージを目にした瞬間、碧の瞳に、これまでに見たこともないような凄まじい怒りの炎が燃え上がった。
「南条隼人……っ、どこまでかすみを苦しめれば気が済むんだ……!!」
子供たちが驚いて動きを止める中、かすみは碧の手をそっと握り返し、真っ直ぐに前を見つめた。敵の悪意がどれほど深くとも、もう二度と、あの暗闇の檻には戻らない。母となったかすみの瞳には、恐怖を越えた、確かな覚悟の光が宿っていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




