第274章:首輪の秘密と、歪んだメッセージ
「本当に、いいお母さんね……」
サンルームの柔らかな敷物の上で、子猫たちに一生懸命ミルクを飲ませ、愛おしそうに毛並みを舐めてあげる母猫の姿を、かすみはしゃがみ込んでじっと見つめていた。
その必死に、命がけで小さな我が子たちを守ろうとしている緊迫した眼差し。それは、まるで今の自分自身を鏡で見ているかのようだった。
かすみはそっと、まだ平らな自分の愛おしいお腹に手を当てる。
かつて、自分が南条財閥という冷酷な檻に閉じ込められていたとき、かすみは孤独と恐怖の中で、幼い凛と蓮を必死に抱きしめ、守り抜いていた。そして今、彼女の体の中には、最愛の碧との間に授かった新しい命が宿っている。
形は違えど、大切なものを守るために命をかける母親の強さは、目の前の猫も自分も、全く同じなのだ。
「もう大丈夫だよ。怖いところからは、もう逃げてこられたんだから。……これからはずっと、私と一緒にいようね」
かすみがそっと手を伸ばし、母猫の頭を優しく撫でたその時だった。
ふと、母猫の首回りを覆う、古びた革製の首輪がかすみの目に留まった。その中央に埋め込まれた小さな銀色のプレートを覗き込んだ瞬間、かすみの指先がピきりと凍りついた。
「え……? この紋章……っ」
見間違いようはずがなかった。そこに刻印されていたのは、かつてかすみを精神の果てまで追い詰めた、あの**『南条財閥のマーク』**だったのだ。
「どうして……っ」
心臓が早鐘を打ち始める。息が苦しくなるほどの動悸を感じながら、かすみは震える手で、母猫の首輪のバックルを外した。
その時、カサリ、と奇妙な音がして、首輪の裏側の細い隙間から、小さく折り畳まれた一枚の白い紙切れが床へと滑り落ちた。
おじさまの邸宅のサンルームに、不気味な静寂が広がる。
かすみは、まるで毒蛇の牙を見るかのような恐怖に駆られながらも、吸い寄せられるようにしてその紙切れを拾い上げ、ゆっくりと開いた。
そこに書かれていたのは、印刷された文字ではない。
あまりにも見覚えのある、あの冷酷で、独占欲に満ち溢れた男の――南条隼人の、流麗で狂気的な直筆の文字だった。
『かすみ、ずっと愛してる。
お前がどこへ逃げようと、僕がいつか必ず迎えに行くから。……大人しく待っててね』
「――っっ!!!!」
悲鳴すら出なかった。
手紙を落としたかすみは、ガタガタと歯の根が合わないほどに震えだし、自分の肩を抱きしめてその場に蹲った。
猫の親子が迷い込んできたのは、偶然などではなかったのだ。
あの男は、最初からすべてを知っている。かすみがここにいることも、お腹に命を宿していることも――すべてを見透かした上で、この猫の首輪に呪いのような手紙を仕込み、お嬢様のお城へと送り込んできたのだ。
夏の陽光が降り注ぐサンルームの中で、かすみは底知れない漆黒の恐怖に、再び引きずり込まれようとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




