第13章:開幕サファリア祭! 憂鬱なお嬢様と完璧な執事の『お休み』交渉
「はぁ……。本当に、今からでもお休みしてしまいたいですわ……」
サファリア女学院の広大な敷地内は、数日後に迫った歴史ある学園祭『サファリア祭』の準備で、これまでにない華やかな活気に包まれていた。
至る所に最高級のシルクリボンや生花が飾られ、生徒たちが優雅に打ち合わせをする中、かすみは中庭のテラス席で、お気に入りの自由帳を開いたまま深いため息をついた。
「お嬢様、どうかなさいましたか? 炭酸が抜けていない、完璧な温度のフルーツティーをお持ちいたしました」
メガネをキラーンと光らせた誠が、音もなく極上のティーカップを机に置く。
かすみはフルーツティーに口をつけ、眉をハの字に下げて誠を見上げた。
「誠さん……私、今年のサファリア祭、体調不良ということにして、お家でお休みさせていただいてもよろしいかしら?」
「な、なんですと……ッ!?」
誠はガタガタと膝を震わせ、大慌てでかすみの額に手を当てようとした。
「お嬢様! もしや、あの青藍高校の害虫どもとファミレスで雑魚寝などをしたせいで、未知の庶民ウイルスに感染してしまわれたのですか!? 今すぐ世界の権威ある医師団を100人ヘリで召喚いたします!!」
「いいえ、体はいたって健康ですの。……ただ、心が少し、憂鬱なだけですわ」
かすみは自由帳の片隅に、ツブツブの瞳のヤンキーや、優しい王子様のイラストをそっと描きながら呟いた。
「今年もまた……あのツリンベッティー学園の露村隼人様が、大量の薔薇の花束を抱えてやっていらっしゃるのでしょう? 想像しただけで、頭が痛くなってしまいますわ」
毎年、学園祭の一般公開日になると、純白のスーツを着た隼人がオープンカーで乗り付け、全校生徒の前で「僕の気高い子猫ちゃん!」と跪いて結婚をアピールしてくるのだ。
拓人たちとの甘い思い出や、ほっぺへの秘密のキスの余韻に浸っていたいかすみにとって、隼人の強烈すぎる存在は、まさに嵐以外の何物でもなかった。
「露村の……あの勘違いトゲトゲ薔薇野郎ですか……ッ!」
誠のメガネが一瞬でバキバキに発光し、殺気を含んだオーラが周囲の空気を凍らせた。誠は懐から、国家権力の刻印が入った特注のタブレット端末を素早く取り出す。
「お嬢様、ご安心ください。お嬢様がそこまで憂鬱になられるのであれば、学園祭をお休みになる必要などございません。今すぐ我が財閥のネットワークを使い、ツリンベッティー学園の敷地ごと、露村隼人を本日付けで宇宙の彼方に強制隔離する書類を処理いたします!!」
「誠さん、それはダメですわーーーッ!!」
学園祭を休みたいかすみと、学園祭を邪魔する男を世界から消し去ろうとする誠。
サファリア女学院に響き渡る主従の押し問答をよそに、真っ赤な薔薇の香りをまとった至高の御曹司の足音は、すぐそこまで迫っているのだった――。
14章に続く




