第268章:聖母の抱擁と、託された信頼
「あやめさん……っ、どうしよう……! 南条隼人が……あの人が、私を迎えに来るの……っ!!」
涙で視界を滲ませながら、子供のように怯えて縋り付いてくるかすみを、あやめは何も言わずにその豊かな母性でそっと抱きしめた。かすみの小さな背中を、一定のリズムで優しく、トントンと叩きながら、あやめは包み込むような温かい声を部屋の静寂に響かせる。
「大丈夫よ、かすみさん。落ち着いて……深呼吸をしてね」
あやめはかすみの体を少しだけ離すと、怯えに揺れる彼女の瞳を真っ直ぐに見つめ、いたわるように微笑んだ。その眼差しには、どんな嵐からも彼女を遮るような、揺るぎない確信が満ちていた。
「大丈夫。早瀬碧さんが、ちゃんとかすみさんを守るわよ」
「碧、さん……」
その名前が呼ばれただけで、かすみの凍りついた心が、わずかに融かされていくような気がした。あやめはかすみの頬に優しく手を添え、親愛を込めて言葉を続ける。
「ええ。あの人が、大好きなかすみさんを誰かに奪わせるわけがないじゃない。……このおぞましい悪夢のことも、不安な気持ちも、すべて私から碧さんに話しておくね。だから、あなたはもう何も心配しなくていいのよ」
あやめの毅然とした、けれどどこまでも優しい言葉は、かすみの心に宿っていた隼人の恐怖の残像を、少しずつ、確実に消し去っていく。あやめが味方でいてくれる、そして何より、碧が自分を命がけで守ってくれる――その絶対的な安心感が、かすみの荒れた呼吸を次第に整えていった。
あやめはベッドから腰を上げると、かすみの額にそっと手を当てて優しく目を細める。
「少し落ち着いたかしら? ……でも、本当にすごい汗よ。今、冷たいタオルを持ってくるから、それで汗をふいてね。お着替えも用意しましょう」
「……ありがとう、ございます……あやめさん……」
かすみが弱々しくも、ようやくいつもの健気な笑みを浮かべると、あやめは安心したように頷いた。
「いいのよ。少しだけ待っていてね」
パタパタと静かな足音を立てて、あやめは寝室の部屋を出て行った。
一人残されたベッドの上で、かすみは自分の胸元に手を当てる。あやめが「碧さんに話しておく」と言ってくれた。その事実だけで、暗闇に包まれていた世界に、再び碧のあの温かい光が差し込んでくるのを、かすみは静かに感じていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




