第259章 駆けつけた愛、そして最高の報せ
神宮寺クリニックの静かな待合室に、激しくドアが開く音が響いた。
コツコツと、だけどどこか焦ったような、急ぎ足の足音が診察室へと近づいてくる。
「かすみ……!」
入ってきたのは、いつも冷静沈着なはずの早瀬碧だった。
綺麗に整えられているはずの髪が少しだけ乱れ、息を乱している。私の体調が優れないという報せを受け、すべての仕事を放り出して、文字通り飛んで来てくれたのだろう。
碧さんはベッドに横たわる私を見るなり、大股で駆け寄って私の手をぎゅっと握りしめた。
「かすみ、迎えに来たよ。……遅くなってごめんね、辛かっただろう」
「碧さん……」
その温かい手の温もりに、私の胸の奥の不安がすうっと溶けていく。碧さんはすぐに視線を上げ、傍らに立つかりん先生に向き直った。
「先生、かすみは大丈夫ですか!? 何か重い病気では……!」
必死な形相で詰め寄る碧さんに、かりん先生は驚く風でもなく、フッと悪戯っぽく、だけどこの上なく温かい笑みを浮かべた。
「ふふ、早瀬ホスピタリティの若き重鎮が、そんなに慌ててどうするの? 安心してちょうだい。奥様の体調が優れなかったのは、悪い病気なんかじゃないわ」
「病気では、ない……?」
呆然とする碧さんに、かりん先生は優しく告げた。
「ええ。お腹の中に、小さな新しい命が宿っているの。――ご懐妊よ、早瀬さん。あなた、パパになるのね」
「っ……!」
その瞬間、碧さんの時間がピタリと止まった。
握られていた碧さんの手に、一瞬だけ信じられないほどの力がこもる。碧さんは目を見張り、何度もかりん先生の言葉を頭の中で反芻しているようだった。
「かすみが……俺と、かすみの、子供……?」
「そうよ。初期の大切な時期だから、悪阻で食欲が落ちて点滴をしていたけれど、母子ともに健康そのもの。これからはあなたが、世界一の優しさで奥様を支えてあげなくちゃね」
かりん先生の言葉を聞きながら、碧さんはゆっくりと私に視線を戻した。
その瞳には、今までに見たことがないほどの、深い愛おしさと、堪えきれないほどの歓喜の涙が潤んでいた。
「かすみ……ありがとう。本当に、ありがとう……!」
碧さんは私の体を壊れ物を扱うかのように優しく、だけど離さないというように強く抱きしめた。
その背中が、嬉しさのあまり少しだけ震えているのが伝わってくる。
「俺、絶対に君とこの子を幸せにする。……凛と蓮も一緒に、みんなで世界一幸せな家族になろう」
耳元で囁かれる碧さんの誓いの言葉に、私は胸がいっぱいになり、碧さんの背中にそっと手を回したのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




