第258章 授かりし小さな奇跡、明かされる過去の縁
神宮寺かりんの指示によって行われた、迅速かつ詳細な検査。
その結果が記載された書類を手に、かりんは信じられないほどに優しい、そして心からの祝福を込めた眼差しを私――早瀬かすみに向けた。
「かすみさん。お体の具合が優れず、食欲がなかった本当の理由が分かりましたよ」
「……病気、なのでしょうか?」
不安げに身をすくめる私に、かりんはクスッと悪戯っぽく微笑み、そっと私の手を包み込んだ。
「いいえ、これ以上ないほどに神聖で、おめでたい理由です。……おめでとうございます。あなたのお腹の中に、早瀬碧さんとの新しい命が宿っていますよ。ご懐妊です」
「え……っ!?」
その言葉が鼓膜に届いた瞬間、頭が一瞬真っ白になった。
碧さんの、子供……?
私の手がおのずとお腹へと伸びる。嵐のような日々を乗り越え、やっと掴み取った碧さんとの平穏な日々。その中で、二人の愛の結晶が静かに、だけど確かに息づいていたのだ。嬉しさと感動で、視界がじわりと涙で滲んでいく。
「初期の大切な時期ですから、悪阻で食欲が落ちていたのね。すぐに旦那様がこちらに向かってくれていますから、安心してちょうだい」
かりんは看護師に温かい飲み物を用意させると、ふと、思い出したように私のカルテと、窓の外の景色を交互に見つめた。そして、少しくだけた、まるでお姉様のようなトーンで私に話しかけてきた。
「ねぇ、かすみさん。少し個人的なことを聞いてもいいかしら?……あの、南条隼人って、一体どんな方だったの?」
その名前に、私は一瞬だけ体を強張らせた。
「世間のニュースでも大騒ぎになっていたけれど、あんな大事件(早瀬ホールディングス襲撃)を起こすなんて……。きっと、想像を絶するほど辛い結婚生活だったんでしょ?」
かりんの言葉は、私を責めるものではなく、一人の女性として私を心から気遣い、同情してくれる温かさに満ちていた。私は静かに頷き、過去の苦い記憶を少しだけ口にした。
「はい……。常に監視されているような、息の詰まる日々でしたわ。私の自由など、何一つありませんでした……」
私の告白を聞いたかりんは、深くため息をつくと、呆れたように肩をすくめて、驚くべき過去を明かしてくれたのだった。
「やっぱりね。……実はね、私、あの南条隼人と縁談があったのよ」
「えっ……! かりん先生が、南条隼人と……?」
驚きに目を見張る私に、かりんは「そうなの」と苦笑いした。
「親同士が勝手に進めていた話なんだけどね。でも、私の場合、父と母から『あなたは神宮寺の家を継ぐ身なのだから、お付き合いするなら同じお医者様(医療関係者)にしなさい』と強く言われていたの。だから、南条からのお話はきっぱりとお断りしたのよ」
かりんはふぅ、と胸をなでおろすように微笑む。
「今思えば、両親のその言葉に従って本当によかったわ。あんな自分の思い通りにならないと狂暴化するような男、お付き合いなんてしていたら私の人生までめちゃくちゃにされるところだったもの。――だからね、かすみさん。あなたが今、あの男の呪縛から逃れて、早瀬碧さんのような素晴らしい紳士と結ばれ、こうして新しい命を授かったこと……私は医師として、そして一人の女性として、本当に心の底から嬉しいの」
かりん先生の裏表のない、真っ直ぐな祝福の言葉。
過去に同じ男との因縁を持ちながら、全く違う未来を選んだ二人の女性が、今、診察室の中で固い絆で結ばれた。
「さぁ、旦那様が到着するまで、ベッドで横になっていましょうね。お母さん」
かりん先生の優しい言葉に導かれながら、私はお腹の小さな命を愛おしく抱きしめるように、そっと微笑んだのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




