第257章 運命の交錯、診察室の優しき眼差し
南条隼人を冷徹に一蹴し、足早に病院へと戻った神宮寺かりんは、いつものように白衣をまとい、真摯な面持ちで午後の外来診察を行っていた。
トントン、と診察室のドアが控えめにノックされる。
「失礼します……」
看護師に付き添われて入ってきたのは、顔色をすっかり青ざめさせ、見るからに痛々しいほどに衰弱した一人の美しい女性だった。
「初めまして、南条――いえ、神宮寺かりんです。どうぞ、そちらの椅子にお掛けになって。……ずいぶんと顔色が悪いようですが、お体の具合はいかがですか?」
かりんは柔らかな、だけど医師としての確かな知性を感じさせる声で迎え入れた。
椅子に腰掛けたその女性――私は、消え入りそうな声で、ずっと胸の奥に抱えていた苦しさを吐露した。
「先生……私、ここ数日ずっと体調が悪くて……。何を食べようとしても、全く食欲が湧かないのですわ……」
嵐のような騒動が過ぎ去り、碧さんの看病を受けながらベッドで休んでいたものの、一向に良くならない体の異変に不安を覚え、這うような思いでこの一流病院へと足を運んだのだ。
かりんは私の痛々しい訴えを静かに聞きながら、手元のタブレットに表示された詳細なカルテへと視線を落とした。
バイタルデータ、事前の問診票、そしてそこに記載された患者の氏名――。
『早瀬 かすみ』
その文字を目にした瞬間、かりんの端正な眉がわずかに動いた。
(早瀬かすみ……。あの、日本経済の頂点に立つ早瀬ホールディングス総帥の新しい奥様。そして――さっきカフェで、あの没落した南条の男が狂ったように名前を叫んでいた、あの……)
かりんの脳裏に、さきほど隼人が喚き散らしていた身勝手な妄想と、医療界のネットワークで耳にしていた「早瀬ホールディングス襲撃事件」の全貌が一瞬で繋がった。
目の前にいる女性は、あの頭のおかしい男が言っていたような「無理やり連れ去られた哀れな所有物」などでは決してない。ただただ、過去の因縁と心労に耐えかねて、今にも折れてしまいそうなほど健気で、守ってあげたくなるような、繊細で美しい一人の女性だった。
かりんはカルテから顔を上げると、先ほど隼人に向けた氷のような眼差しとは打って変わり、包み込むような温かい微笑みを私に向けた。そして、傍らに控える看護師へと手際よく指示を出す。
「かすみさん、とてもお辛かったわね。まずは原因をはっきりさせるために、さっそく詳しい検査をしましょう。……看護師さん、彼女を検査室へ。それから――」
かりんは私の震える手を優しく包み込みながら、真剣な目で言葉を重ねた。
「あまりにも顔色が優れません。とてもお一人で帰せる状態ではありませんから……すぐに、旦那様(早瀬碧)にもご連絡を差し上げて、こちらに送り迎えにきていただくよう手配してちょうだい」
「あ、碧さんを……。お忙しいのに、申し訳ありません……」
申し訳なさそうに俯く私に、かりんは「いいえ、こういう時こそ旦那様の出番ですからね」と、心強いお姉様のように優しく微笑んでくれた。
(早瀬かすみさん、本当に素敵な方……。あの南条とかいう哀れな男が、すべてを失ってでも執着する理由が分かったわ。でも――彼女に相応しいのは、あの男ではなく、今すぐここに駆けつけてくれる本物の紳士(早瀬碧)だけね)
偶然の出会いがもたらした、新しい温かな繋がり。
かりんの迅速な判断によって、かすみの体に隠された「ある重大な真実」が、ついに明かされようとしていた――。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




