第256章 冷徹な品定め、一瞬の幕引き
神宮寺クリニックの令嬢であり、現役の医師でもある神宮寺かりん。
可憐がなりふり構わぬ執念でどうにかセッティングしたその縁談の席は、高級ホテルのラウンジでもなく、かりんの勤務する大病院のすぐ近くにある落ち着いたカフェで行われていた。
「いやあ、あの……かりんさん、お噂以上にとてもきれいですね。僕、診察室でお会いした時から、ずっとあなたのことが忘れられなくて――」
高級ブランドのスーツ(それすらも、差し押さえを免れた数少ない残り物だったが)に身を包んだ南条隼人は、髪を整え、かつての御曹司気取りの笑みを浮かべて目の前の美女を見つめていた。白衣を脱ぎ、洗練された私服に身を包んだかりんの美貌は、確かに息をのむほどだった。
しかし、かりんは隼人の甘い言葉に頬を染めるどころか、ピクリとも表情を変えなかった。彼女は運ばれてきたコーヒーにすら手をつけず、組んだ足の先を小さく揺らしながら、いきなり冷徹な質問を隼人に叩きつけた。
「お褒めいただき光栄ですが、南条さん。単刀直入にお聞きしますわ。……あなたのご家族、あるいはご親戚に、お医者様の家系の方はいらっしゃいますか?」
「え? い、いや……うちは元々、南条財閥という不動産や金融をメインにした企業グループでして、医者の家系では……」
予想外の質問に、隼人は引きつった笑みを浮かべてドギマギと言葉を詰まらせる。
かりんはフッと冷ややかな溜息をつき、手元のスマートな時計に目を落としながら言葉を重ねた。
「そうですか。困りましたわね。私、父や母から『結婚相手を選ぶなら、絶対に同じお医者様の方とお付き合いしなさい』と厳しく言われて育ちましたの。医療の苦労を分かち合えない方とは、そもそも同じ時間を過ごせませんので」
「そ、そこをなんとか……! 僕だって、南条家の跡取りとしてこれから必死に――」
「それから、もう一つ」
隼人の言い訳を、かりんの鋭い声が容赦なく遮った。彼女の知的な瞳が、まるで欠陥のあるカルテを見るかのように、隼人を冷たく射抜く。
「事前にお手元へいただいたプロフィールを拝見しましたけれど……南条さんは現在、まともな職に就かれておらず、これまでの経歴がほぼ白紙、あるいは不自然に抹消されているのはどうしてかしら? 西園寺家とのトラブルや、他社への不法侵入で騒ぎを起こしたという噂も、医療界のネットワークを辿ればすぐに耳に入ってきますわ」
「っ……!? それは、その……!」
完全に自分の過去の悪行と、現在の「無職の没落御曹司」という哀れな現実を見抜かれている事実に、隼人は顔を真っ青にしてガタガタと震え出した。
「お家柄も医師ではなく、ご本人にもまともな経歴がない。これでは私、あなたとお付き合いすることは絶対にできませんわ。時間の無駄です」
かりんはそう言い切ると、一口もつけていないコーヒーの代金をテーブルにカチャリと置き、迷いのない動作で席を立った。
「私、これから大事な患者様の診察がありますので、これで失礼します。二度とこのような席を設けないでくださいね。それでは」
「あ、あの……かりんさん!? かりん先生――!!」
引き止める隼人の声など完全に無視して、かりんは美しい背筋を伸ばしたまま、風のようにカフェを去っていった。
かすみを失い、今度は神宮寺家の資産を狙って近づこうとした南条隼人の浅はかな野望は、エリート女医の圧倒的な正論の前に、わずか数分で完膚なきまでに叩き潰されるのだった――。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




