第12章:眠れない夜の夜空と、サファリア女学院の新たなる嵐!【前編】
ファミレスの店内に敷き詰められた最高級シルクのお布団の中。
かすみはパチッと目を覚まし、天井を見つめてそっとため息をついた。
「はぁ……ドキドキして、どうしても眠れませんわ……」
左右を見れば、お風呂上がりのもちもち肌になった大翔と凌駕が、お布団を蹴飛ばしながらスースーと無防備に寝息を立てている。奥の席では、海斗が「お嬢……俺が守る……」とツブツブの瞳を閉じながら熱い寝言を呟いており、碧は寝ながらもメガネのフレームを気にするようにピクッと手を動かしている。そして拓人は、まるで天使のような綺麗な寝顔でスヤスヤと眠っていた。
かすみはそっとお布団を抜け出すと、自由帳を胸に抱え、ファミレスの勝手口から静かに外へと出た。
見上げれば、吸い込まれそうなほどに綺麗な満天の夜空が広がっている。ひんやりとした夜風が、火照ったかすみの頬にとても心地よかった。
「ふふっ、皆様、寝言を仰ったりして本当に賑やかですこと……。青藍高校の皆様は、毎日があんなに楽しそうで、わいわいがやがやしていらっしゃるのかしら?」
ふと、かすみは自分が通うサファリア女学院のことを思い出していた。
サファリア女学院の修学旅行は、当たり前のように『海外旅行』であり、宿泊先もプライベートが完全に守られた超一等ホテルの『個室』が基本だ。
「サファリアでは、皆様とお部屋で一緒にお雑雑寝をして、お肌の弾力を確かめ合うようなパジャマパーティーなんて、絶対にありませんもの……」
初めて体験した「普通の高校生」たちの温かい賑やかさに、かすみの胸はエモい愛おしさで満たされていく。
しかし、夜空を見つめるかすみの瞳が、不意にちょっぴり曇った。
「そういえば……今度は、サファリア女学院の学園祭(サファリア祭)が控えておりますわね。……はぁ、そう思うと、毎年少しだけ憂鬱になってしまいますわ」
サファリア女学院の学園祭には、毎年、他校の格式高い男子お坊ちゃま学校の生徒たちが大挙してやってくる。しかも、そのお坊ちゃま学校の中でも、特に格式が高くて個性強めの人間が集まることで有名な――『ツリンベッティー学園』の生徒たちだ。
「あの方……ツリンベッティー学園の、あの超有名御曹司の方も、またきっといらっしゃるのよね……」
かすみは頭を抱えそうになった。
その御曹司は、毎年サファリアの学園祭が来るたびに、これでもかと目立つ真っ赤な薔薇の花束をドサッと抱えてやってきては、かすみの前に跪いて「僕の気高い子猫ちゃん、結婚を前提に付き合ってくれ!」と、強烈な結婚アピールを公衆の面前で叩きつけてくるのだ。
「ただでさえ拓人さんからのお告白や海斗さんたちのことで頭がいっぱいですのに……またあの薔薇の花束を抱えたツリンベッティーの方がやってきたら、一体どうなってしまうのかしら?」
かすみは、ファミレスの店内で仁王立ちしてドローンを監視している執事・誠の姿を思い浮かべた。
「あの強烈な御曹司を見た誠さんは……一体、なんて仰るかしら? きっと、メガネをバキバキに発光させて、ツリンベッティー学園ごと国家権力で宇宙の彼方に強制排除する書類を作り始めてしまいますわ……!」
綺麗な夜空の下、かすみは自由帳に『ツリンベッティーの薔薇』と少し困ったようなイラストを書き留める。
青藍高校の男たちとのファミレスの甘い夜の裏で、お嬢様を巡る次なる超巨大な嵐(お坊ちゃま御曹司)が、すぐそこまで足音を立てて近付いているのだった――。
中編に続く




