第238章 奪還の狂気、壊される光
ホテルの巨大なグランドボールルームは、まばゆいばかりのシャンデリアの光と、温かい拍手の音に包まれていた。
今日は、私と早瀬碧様の婚約披露パーティー。
ひな壇の上から見渡すと、そこには私を実の家族のように毎日お泊まりさせて守ってくれた貝森財閥の皆様、湊くんと百合ちゃんの愛らしい笑顔、そして唯一の頼れる味方である納屋のおじさまの姿があった。さらに、心強い味方である納屋あけみ・森野薫夫妻や、私のために美しい指輪を用意してくれた森野海斗社長までが一堂に会し、私たちの新しい門出を心から祝福してくれている。
「かすみさん。改めて、俺の妻になってください」
碧様がひときわ優しい声で囁き、私の左手を取る。森野海斗ジュエリーショップで完成した、世界に一つだけの美しい指輪が、会場の光を浴びてきらきらと眩しく輝いた。ゆっくりと、私の薬指に指輪がはめられる――その瞬間、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
私が、本当の幸せを掴んだ、決定的な瞬間だった。
――だが、その光に満ちた会場のすぐ外、ホテルの喧騒の影には、いくつもの不穏な視線が交錯していた。
「……フン。随分と華やかなお遊びですね、かすみ様」
ラウンジの柱の陰から、偶然を装ってこのホテルに潜んでいた長谷部誠が、苦々しげに、だけど冷徹な瞳でその光景をガラス越しに見つめていた。「自分がよければいい」と、かつて私を冷たくあしらった元秘書は、今の私のまばゆい輝きが面白くないのか、静かにグラスを傾けている。
そして――最も最悪な音を立てて、運命の歯車が狂い出したのは、ホテルのエントランスだった。
「隼人さん、行きましょう。お父様たちをお待たせするものではありませんわ」
西園寺麗華が、傲然とした態度で南条隼人の隣を歩き、デートのために外へと足を踏み出した、まさにその時だった。
大宴会場の開け放たれた扉の隙間から、隼人の目に、あまりにも残酷で、あまりにも美しい光景が飛び込んできた。
ステージの上で、早瀬碧に愛おしそうに微笑みかけ、薬指に指輪をはめられている、納屋かすみの姿。
(かすみが……他の人の、妻になる……?)
その瞬間、隼人の脳内で、何かが音を立てて完全に弾け飛んだ。
「隼人さん……? ちょっと、どこへ行くのですの!?」
怪訝そうに叫ぶ麗華の声など、もう隼人の耳には一切届かなかった。失敗すれば南条財閥は終わり――虎之介と可憐、両親の必死の懇願も、名門西園寺家との超重要なデートも、今の隼人にとっては塵に等しかった。
頭の中を埋め尽くしたのは、激しい拒絶と、どす黒い独占欲だけ。
「かすみ……かすみッ!!」
麗華をその場に置き去りにして完全にすっぽかし、隼人は狂ったように踵を返すと、警備を力任せに押し退けて婚約披露パーティーの会場へと突進していった。
扉が激しく左右に叩きつけられ、華やかな音楽がピタリと止まる。
静まり返る会場の中央、指輪を交換し終えた私と碧様の前に、息を荒くし、目を血走らせた南条隼人が立ちはだかった。
「そこをどけ、早瀬碧……!」
隼人は会場中の名士たちの視線も顧みず、私を射抜くように見つめて絶叫した。
「かすみは……かすみは、俺の妻だ!!!」
幸せの絶頂から一転、狂気の乱入者によって、美しいパーティー会場に最悪の大嵐が吹き荒れようとしていた。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




