第218章:さりげない問いかけと、絶対者の眼差し
リビングでは、子供たちが海斗社長を囲んで「探検隊のブローチはここを金色にしよう!」「ぬいぐるみのペンダントには星をつけたい!」と、大はしゃぎでスケッチブックを広げている。貝森財閥の大人たちもそれを笑顔で見守り、部屋の中は温かい熱気に包まれていた。
そんな賑わいから少しだけ離れた場所で、私はおじさまの隣にそっと歩み寄った。
胸の奥は、今も早鐘のように激しく脈打っている。さっき凛と蓮に「お手伝いさん」と挨拶していたあの秘書の横顔――少し雰囲気は変わっていたけれど、どうしても、あの長谷部誠の面影が頭から離れない。
私はおじさまに悟られないよう、深く息を吸い込んで平静を装うと、トレイから新しく淹れた紅茶をおじさまの前に置きながら、さりげなく、本当に何気ない風を装って声をかけてみた。
「あの……おじさま。あちらにいらっしゃる方……新しく雇われた方がいるのですか?」
極力、声が震えないように。ただの好奇心で尋ねたかのように、視線を子供たちのほうへ向けたまま言葉を紡ぐ。
おじさまは、私が差し出した紅茶にそっと手を伸ばし、それから私のほうをゆっくりと振り返った。その深く、すべてを見透かすような漆黒の瞳と視線が交わった瞬間、私は一瞬だけ息が止まりそうになる。
おじさまは、部屋の隅の影に完璧な直立不動で控えているその秘書――長谷部誠のほうへ、わずかに視線を走らせた。そして、フッと口元に微かな、けれど絶対的な強者の余裕を孕んだ微笑を浮かべた。
「ああ、あの男か。私の新しい秘書だよ」
おじさまの声は、どこまでも低く、そして揺るぎない。
「仕事の能力だけは確かでね。……だが、過去に大きな過ちを犯してすべてを失い、行き倒れていたところを、私が拾ってやったのだ。今は私の目の届く場所で、一生をかけて己の罪を贖う誓いを立てている」
おじさまはそう言うと、私の少し冷たくなった手を、大きな手のひらでそっと包み込んでくださった。
「心配いらん、かすみ。あの男は、私の完璧な管理下にある『影』だ。私の許しがない限り、勝手に動くことも、誰かを傷つけることもできん。……お前たちの平穏を脅かすものは、この世に何一つ存在しない。私を信じなさい」
「……っ、はい。おじさま」
おじさまの温かい手の温もりと、その絶対的な言葉の響きに、私の胸を支配していたあの冷たい恐怖が、すうっと溶けていくのが分かった。
やっぱり、あの方は誠さんだったのだ。
でも、長谷部家として私たちを苦しめるために現れたのではない。おじさまの圧倒的な権力によって牙を抜かれ、二度とかすみや子供たちに触れないという鎖に繋がれながら、影として生きることを強制されているのだ。
元夫である長谷部誠を、自らの最高峰の盾(秘書)として支配し、私たちの安全を守るための駒にしているおじさまの、恐ろしいほどの策略と底知れぬ愛――。
暗い部屋で届かぬ叫びを上げている南条隼人、そしておじさまの足元で影として平伏する長谷部誠。
過去に私たちを傷つけた男たちが、それぞれ全く違う形で破滅と贖罪の道を歩まされている現実を背に、私はおじさまへの果てしない感謝を抱きながら、再び子供たちのきらめく笑顔の輪へと戻っていくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




