第217章:霧の向こうの男と、震える疑惑
「ねぇねぇ、どうしておじさまの隣にいるの?」
「おじさまのお友達なの?」
無邪気な好奇心に瞳を輝かせた凛と蓮が、トコトコと長谷部誠の目の前まで歩み寄ってきた。見上げるほどに大きくなった我が子たちが、いま、自分のすぐ目の前に立っている。誠は喉の奥がカッと熱くなり、心臓が破裂しそうなほどの衝撃に襲われた。
『……かすみと子供たちには、二度と触れるな』
おじさまと交わした絶対的な誓約が、誠の脳裏を支配する。誠は溢れ出しそうになる涙を必死に堪え、感情を完璧に殺したビジネスパーソンの仮面を張り付かせると、子供たちの目線に合わせて深く、静かに一礼した。
「いいえ。私はおじさまの『お友達』ではなく、お仕事をお手伝いしている秘書でございます。おじさまの大切なお客様である皆様を、こうしてお守りするのが私の役目なのです」
名乗ることすら許されない、届かぬ距離。自分の顔すら覚えていない双子から「おじさまの隣にいる格好いい人」としか認識されていない現実は、誠の胸を容赦なく抉った。けれど、かつて自分が二人を傷つけた報いなのだと、誠はただ静かにその痛みを引き受けた。
「ふーん、お仕事のお手伝いさんなんだ!」
「おじさまをいつも助けてくれて、ありがとう!」
子供たちは誠の言葉に納得し、弾けるような笑顔を見せてまた湊くんたちの元へと駆け戻っていく。
だが、その様子を少し離れた場所から見つめていたかすみは、言葉を失ったまま、その場に釘付けになっていた。
(……え? あの方……まさか……)
誠が子供たちに対応するために一瞬見せた横顔、その声の響き、そして佇まい。
かつて長谷部家で自分を冷遇し、最終的にはすべてを失って行方知れずになったはずの元夫・長谷部誠の面影が、目の前の洗練された秘書の姿に重なっていく。
確かに、以前とは雰囲気が全く違っていた。おじさまの側近にふさわしい、洗練されて引き締まったその容姿は、過去の傲慢だった誠とは別人のようにも見える。
(でも……顔は少し変わっているけれど、あの独特の立ち振る舞いは……まさか、本当に誠さんなの……!?)
かすみの心臓が、早鐘のように激しく脈打ち始める。
なぜ彼が、あの「伝説のおじさま」の専属秘書としてここにいるのか。どうして自分のすぐ近くにいるのか。頭の中を無数の疑問と動揺が駆け巡る。
今すぐにおじさまの袖を引いて、「あの方は誰なのですか?」と聞きたかった。
けれど、かすみの唇は小刻みに震えるだけで、どうしても言葉にならなかった。
もし本当に彼が誠なのだとしたら、なぜおじさまは彼を側に置いているのか。またあの地獄のような長谷部家との因縁が、自分や子供たちの前に這い出てくるのではないか――。手に入れたばかりのこの眩しい幸福が、一瞬にして壊れてしまうかもしれないという「恐怖」がかすみの胸を支配し、おじさまに真実を問いかける勇気を奪ってしまったのだ。
何も知らずに笑い合う子供たちの声が響く中、かすみはおじさまの大きな背中と、その影に徹する誠の姿を、ただ怯えを孕んだ瞳で見つめ続けるしかなかった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




