第216章:贖罪の眼差しと、届かぬ距離
おじさまと海斗社長、そしてかすみを乗せた高級車が貝森財閥の邸宅に到着したとき、おじさまの専属秘書である長谷部誠は、運転席から静かにドアを開け、おじさまたちを厳かにエスコートした。
おじさまたちが温かい拍手で迎えられ、貝森財閥の皆様とリビングへと進んでいく中、誠は一歩引いた影のポジションに立ち、静かにその光景を見つめていた。
彼の視線の先にいるのは――かすみ、そして凛と蓮の姿だった。
(……大きくなったな。二人とも、本当に……)
誠の胸の奥に、言葉にならない激しい感情が突き上げてくる。
南条家や長谷部家という冷酷な檻にいた頃の、大人の顔色を窺って怯えていた小さな双子の面影は、今の二人にはもうどこにもなかった。眩しい夏の光の下で、湊くんや百合ちゃんと肩を並べ、声を上げてのびのびと笑っている。その弾けるような笑顔は、本物の愛と自由を手に入れた証拠そのものだった。
その輝かしさを見つめるほどに、誠の心には鋭い刃で抉られるような後悔が押し寄せる。
(あんなに脆く、傷つきやすかったかすみを……私はあの時、守ってあげることができなかった。そればかりか、凛と蓮という幼い二人の未来をめちゃくちゃにし、離れ離れにする片棒を担いでしまった……)
長谷部ホールの冷徹な血脈と、自身の無力さのせいで、最愛の人々を地獄に突き落としてしまった過去。その罪の重さは、どれだけ時が流れても誠の魂を苛み続けていた。今、おじさまの秘書として「二度とかすみたちに触れない」という誓い守り、ただ遠くから見守ることしかできない現状こそが、彼に課せられた一生の贖罪だった。
誠が感情を押し殺し、完璧な壁の一部のようになって佇んでいた、その時だった。
楽しそうに海斗社長とジュエリーのデザインを話していた凛と蓮が、ふと、おじさまのすぐ後ろに控えている誠の姿に目を留めた。
二人は不思議そうに小首を傾げ、大きな瞳をパチパチと瞬かせる。幼い頃の記憶の霧の向こうにいる男。けれど、今の二人にとって彼は「父親」でも「長谷部誠」でもなく、ただおじさまの後ろに静かに佇む、見知らぬ大人の一人でしかなかった。
凛と蓮はかすみの服の裾をトントンと引っ張り、あるいは隣に立つおじさまの顔を見上げて、無邪気に指をさして尋ねた。
「ねぇ……あのおじさまの隣にいる、格好いい人は誰?」
「いつもおじさまの後ろに静かに立ってるけど、おじさまのお友達なの?」
子供たちの純粋で、だからこそ残酷なその問いかけが、誠の胸を深く、深く突き刺した。
自分がかつて傷つけ、引き離してしまった子供たちは、もう自分の顔すら覚えていない。けれど、それでいいのだと誠は自嘲気味に心を震わせる。自分という過去の泥を忘れ、おじさまという最高の父親のもとでのびのびと育っていることこそが、今の誠にとって唯一の救いだったからだ。
闇の中でかすみを探し回って「戻ってこい!」と醜く発狂している南条隼人。
そして、過去の罪を背負い、名前すら忘れられてもおじさまの影として一族の平和を守り続ける長谷部誠。
二人の元旦那たちのあまりにも対照的な没落と贖罪のドラマが、かすみたちの眩しい未来の裏側で、静かに、けれど決定的に交錯していくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




