第210章:西園寺麗華の不審と、崩れる仮面
「あの……南条様?」
なおも無遠慮に、そして獲物を睨みつけるかのような狂気的な視線を向け続ける南条隼人に対し、目の前の令嬢――西園寺麗華は、ついにその美しい眉をひそめた。
彼女はただ怯えて俯くような、か弱いだけの女ではなかった。名門・西園寺家の令嬢としての高いプライドと、毅然とした芯の強さを持っている。だからこそ、隼人のその異常なまでの凝視を、見過ごすわけにはいかなかったのだ。
麗華は背筋をすっと伸ばし、隼人の冷え切った瞳を真っ向から見据えて言い放った。
「わたくし、西園寺麗華です。……さっきからずっと、無言でわたくしのことを見ていらっしゃいますけれど、一体誰と間違えているの?」
その凛とした問いかけに、隼人はハッと息を呑み、わずかに我に返った。
目の前にいるのは、かすみではない。西園寺麗華という、全く別の人間だ。だが、その怒りを孕んで少し吊り上がった瞳や、毅然とした口調すらも、かつて南条家で子供たちを守るために自分に必死で反抗してきた「かすみ」の強い姿に重なって見えてしまう。
完全に麗華を「かすみの身代わり」として見てしまっている隼人は、言葉を失ったまま固まっていた。そんな隼人の無礼な態度に、麗華はますます不信感を募らせ、呆れたように小さくため息をついた。
「お見合いの席ですのよ? ろくにご挨拶もせず、他の女性の面影を重ねていらっしゃるのだとしたら、西園寺家に対しても大変失礼ですわ。……あの、まずは自己紹介をお願いします」
麗華からの真っ当すぎる、そして容赦のない追及。
かつてなら、南条の完璧な御曹司として、どんな令嬢の前でも余裕の笑みを浮かべ、洗練された自己紹介をして見せただろう。だが、今の一瞬たりともかすみの幻影から逃れられない隼人にとって、その簡単なはずの「自己紹介」すらも、喉に刺さったトゲのように重く苦しいものになっていた。
「私は……南条、隼人だ……」
ようやく絞り出した声は、いつもの傲慢な威厳を失い、どこか掠れていた。
本物のかすみは今、おじさまと海斗社長、そして貝森財閥のガッチリと結ばれた最強の絆の中で、子供たちの笑顔に囲まれて最高の夏休みを過ごしている。
その本物の光を永遠に失ったことも知らず、隼人は目の前の「西園寺麗華」という新たな存在に不審がられながらも、歪んだ執着の手を伸ばそうと、泥沼の深淵へさらに足を踏み入れていくのだった。
「本作の執筆にあたり、誤字脱字の確認や文章整理のためAIを利用しています(規約に基づき修正案の提案は受けない設定で使用)。物語の構成や本文作成は全て自分で行っています。」




